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賃貸借契約の引継ぎで事業譲渡と会社分割の差が明暗を分けた

分社手法には、主に「事業譲渡」と「会社分割」があります。

あまりなじみがないかもしれませんが、小さな会社のM&Aでは事業譲渡がよく使われていたりもします。

負債が大きい場合に、事業だけを買収するケースなどはその典型例です。

 

事業譲渡と会社分割は、私のような数多くの分社の設計をした人間でもいずれを使うか迷う場合があります。

それぞれに一長一短あるためです。

今回は「会社分割を選んで正解だった」という事例をご紹介しましょう。

 

 

とある卸業の会社は、東京に本店があり、大阪に支店がありました。

ただ、内部的にはほぼ分裂してしまっていて、それぞれが独自に動いてしまっている状況でした。

 

そこで「もういっそのこと別々の会社にしよう」ということになり、奥村が会社内に入って切り分けの調整をすることになりました。

 

 

いろいろと事情があり一刻も早く会社を分けなければいけない状況でした。

本来ならば、外部の利害関係者からの合意をとりながら分社を進めておきたいところです。

しかしその時間がありません。

また「異議を唱えるような利害関係者なんていない」という社長の見立てもあり、ほぼ内輪の合意だけで分社を進めた次第です。

 

 

大阪の支店を新設分割により別会社として設立しました。

 

ところが事件がおきました。

大阪の新会社の事務所のビルの大家が、立ち退きを主張してきたのです。

会社が新しくなり社名が変わったことを報告するとともに「看板を変えさせてほしい」と依頼したときに、こんな話となってしまいました。

 

会社が変わっていることが賃貸借契約違反だという理屈です。

ちなみに後で聞いた話では、大家の身内に事業をしている者がいたらしく、その人間に部屋を貸したいため、立ち退きを迫れるチャンスを狙っていたそうです。

 

 

寝耳に水の展開です。

弁護士から契約解除と退去を求める内容証明まで送られてきました。

 

賃貸契約が新会社で引き継げなければ、退去して別の事務所を探さなければいけません。

移転や印刷物に費用がかかり、当初の収支シミュレーションが狂ってしまいます。

また、会社分割をして、その後すぐに移転をするようでは、お客さんにドタバタしている印象を与えてしまいそうです。

 

なんとか事務所をそのまま使わせてもらいたいところでした。

 

 

結果は、私が支援した会社の「賃貸借契約を引継いでいる」という主張が勝りました。

そのまま事務所を使うことができたのです。

 

理由は「会社分割」で新会社が事業を引きついだことによります。

会社分割では法的な性質上、当事者である会社が承継させると決めれば原則承継ができます。

 

この点、もし事業譲渡を選んでいたら逆の結果になっていたでしょう。

事業譲渡では、利害関係を持つ第三者の同意がある場合のみ契約等の承継が可能です。

 

こんな法的な性質の違いにより、今回は危機を回避することができました。

一応そこまで考えて会社分割を選択したのではありますが・・・とにかく肝を冷やしました。

 

 

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この記事を書いた人

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継デザイナー
これまで関わった会社は1000社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられた神戸に住むコンサルタントです。
最新著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?』
ゴールを見すえる社長のための会【着地戦略会】主宰