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株価が高くて、後継者にしたい従業員だと会社を買えないときは?

目次

従業員の資力と信用の乏しさが事業承継のネックとなる

従業員が後継者となる場合は、株式を買い取る資金力に乏しいケースが多いもの。
また、先代から会社を買うために銀行からお金を借りようにも、実績がない状態では信用力もありません

こんなお金のハードルの高さのせいで、事業継承が暗礁に乗り上げてしまいがちです。

そこで、問題をクリアするに有効な分社手法を使った事業承継の手法をご紹介します。

事業承継に分社(会社分割や事業譲渡)を使う

分社手法とは、会社分割や事業譲渡を使って会社を分けることです。

この分社手法を使うと道が拓ける場合があります。
状況にはまると、ものすごく効果的な策を作れます。

分社をする際には、何を別の会社に持ち出すかを任意で設計できます。
「どの資産を別の会社に持っていくか?」、さらには「どの事業を持っていくか?」を自分たちで選べてしまうのです。
さらには負債を意図的に旧会社に置いていったりすることも可能です。

この、任意に、何を別の会社に持ち出して、何を旧会社に残せるか線を引けるという性質が役に立ちます。


7000万円の会社を会社分割を活用して承継させた事例

会社の株価が高くて従業員には手が出せないときでも、この分社を上手く活用して、従業員後継者が会社を引き継ぎやすいかたちを作ってしまおうという発想です

具体例をもとに説明を加えましょう。

ものづくりをしているA社では、社長の身内に後継者がいません。
しかし、腕の立つ従業員であるBさんがいます。
社長はBさんを後継者にしたいと思っていたし、Bさんからもその意欲を感じていました。

しかし、ご多分にもれず、彼も資金力がありません。
庶民として育ち、これまではずっと勤め人です。
資金力も、銀行からお金を引っ張ってくる信用も足りません。

会社の価値をざっくり計算したところ、約7000万円の価値でした。
会社の株式はすべて現社長が持っているので、その株式を買い取るには7000万円のお金を用意しなければならないということです。
Bさんには、とてもそんなお金を用意することはできません。


雇われ社長、分割払い、どの方法もしっくりこない

社長と相談を受けていた私は、様々な方法を考えました。

たとえば、株式は譲らず、Bさんを「雇われ社長」とする案です。
しかし、責任の所在がおかしくなるので、却下となりました。
もしBさんが経営を上手くできないで会社の価値が下がったとしても、それで損をさせられるのは株主である現社長となってしまいます。
自分が経営をしないのであれば、社長は明確に現事業と一線を引いたほうがいいでしょう。

ほかには株式を割安で売ってあげることも考えられます。
会社を継いでくれることはたしかにうれしいし、ありがたい。
しかし、そこまでして継がせるべきかというのは別問題です。
あまりに安く売るくらいなら、廃業させて、会社から資金を回収したほうがマシということになりかねません。

株式の売買代金をBさんから分割で払ってもらうというアイデアも考えました。
株式の売買は先に行うけれど、代金は少しずつ払ってもらうという方法です。
この案はこれまでの2つよりはマシな感じがしました。

しかし、貸し倒れのリスクを社長が負わなければいけなくなるので、できれば避けたいところです。
また、会社の利益や役員報酬から月々に払える現実的な額を考えると、支払い期間が相当長くなってしまう懸念もありました。

会社分割で不動産を別会社にする

ところで会社の株式が高くなった原因はなんでしょうか。
それは、A社が工場とマンション(事務所として利用)を所有していたからです。
これらの不動産が資産の大きな部分を占めていました。



そうであれば、不動産さえ引き継がなければ株価はグッと下がるはずです。

従業員の後継者でも手が届くかもしれません。
要は、事業に最低限必要なものだけを従業員のBさんに売り、不動産を含めた残りは社長の手元に残すということです。

この発想で、事業承継の新しい企画を練りました。

不動産を所有させるのは個人か法人か?

不動産を社長の手元に残すとして、社長個人で保有するのか、または法人で所有するのかという論点がまずありました。

個人で持つならば、社長は会社から不動産を買い取ればいいでしょう。
その原資は、社長の退職金を充てることができそうです。

しかし、社長は法人で所有することを希望しました。
法人であれば経費を使える点は、いずれ来る相続などまで考慮した結論です。

会社分割か事業譲渡か?

法人で不動産を持つとして、次は、「どの手法をどのように活用するのか」が論点です。
この論点は本当に複雑で、状況によって変わります。

事業譲渡を使うのか、会社分割を使うのか。
不動産(または事業)を担うのは、新会社にするのがいいのか、旧会社がいいのか。

これらの選択により、ビジネス上の地位を継続できるかのリスク、税金、会社を切り分けるための労力、手続き費用等が大きく変わってしまいます。
自信を持って分社の企画を描ける人は、専門家の中にも少ないのが現実かもしれません。

そもそも、分社というのは会社を切り分ける手術のようなものです。
下手を打てば、取り返しがつかないことになる危険があるのは当然とも言えます。

事業譲渡スキームを選択

今回は、事業譲渡を使うことに決めました。

まず、新しい会社をBさんが設立しました。

また近い将来、旧会社から事業を買い取るための資金が必要になります。
そのためBさんは起業用融資を利用して、金融機関から運転資金とあわせて事業の買取用資金を借りました。


次に、事業譲渡です。
旧会社が事業をBさんの新会社に譲り、Bさんの新会社はこれに対する対価を支払います。

「事業」とは、設備などの事業用資産にとどまらず、在庫商品や原材料、従業員との雇用契約や取引先との関係などまで含まれます。
Bさんの新会社が事業を行うに必要な、資産と地位の集合体というイメージになります。





Bさんの新会社は、事業を旧会社から買い取ることになります。
しかし、買い取る対象範囲は、事業に最低限必要なものだけにとどまります。
このケースでは不動産が事業譲渡から除外されたので、結果的には、1000万円以下で事業を買えるようになりました。
これならば勤め人だったBさんにも十分手が出せる金額です。

先代社長の旧会社としては、事業を譲ったことで、その対価が手に入りました。
また、工場等の不動産は、前と変わらず所有を継続しています。

事業譲渡による分社、その後・・・

事業譲渡により事業を引き継ぎ、Bさんは新会社の社長となりました。
先代とともに、関係者へ社長就任のあいさつ回りにも行きました。

顧客も仕入れ先も、金融機関、さらには他の従業員といったすべての利害関係者が事業承継を受け入れてくれました。
法的にはあくまでこれまでとは別の新会社になるので、旧A社時代の契約等をあたりまえに引継げるわけではありません
今回は、顧客等が事業譲渡に協力してくれることまで見こして事業譲渡スキームを選択しましたが、やはり無事に承継ができるまでは安心できません。

Bさんの会社は旧会社の工場などをそのまま使わせてもらっています。
そのため、不動産賃貸借契約を結んで賃料を新会社から旧会社に支払われるようにしています。

賃料に関しては、先代社長からの応援の気持ちもあって、Bさんはかなりお得な金額でスタートさせてもらっています。


ある意味で旧会社はものづくりの会社から、不動産賃貸業に転業したことになります。
このまま先代社長に相続が起きても、株式は相続人に引き継がれ、この新会社と旧会社の賃貸借契約は継続されます。

分社で道を拓く

この事例は分社を上手に使うことで、問題を一気にクリアできたケースでした。

会社分割や事業譲渡などの分社手法は、使い方によっては本当にいい働きをしてくれます。
みなさんの事業承継でも活用を検討してみてはいかがでしょうか。

分社の相談がありましたら、お気軽にお声がけください。

〜お知らせ〜
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この記事を書いた人

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継デザイナー
これまで関わった会社は1000社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられた神戸に住むコンサルタントです。
最新著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?』
ゴールを見すえる社長のための会【着地戦略会】主宰

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