かつて私が経営コンサルティングを手掛ける前、司法書士として債務整理の業務を手がけていたときのことです。
母親と娘二人が借金の相談に来ました。
「会社が潰れ、銀行から借金の返済を迫られている」と。
印刷会社を父親が創業し、死亡後は母親が社長に就任しました。
20代の娘たちはその会社には入社せず、専業主婦と会社員をしています。
そして会社は銀行からの借入の返済を滞るようになりました。
そうならば代表者である母親が、会社の債権者である銀行から請求を受けるのは、日本の商慣習からすると普通のことです。
社長に就任した際に、会社の借金の連帯保証をしているはずですから。
しかし、今回は会社に無関係のはずの娘さんたちまで銀行から請求を受けていたのです。
なぜそうなってしまったのか?
まず前提として押さえておいていただきたいのは、家族だろうが借金の問題について、法律上はあくまで他人だということです。。
「父親の作った借金なんだから子供は耳をそろえて返せ」というドラマにありそうな貸し手の主張は、本来ウソになります。
それでは今回、なぜ娘たちは請求を受けたのか。
その原因は「相続」です。
相続というものは、故人の資産等をすべて引継ぐのが原則です。
言い換えれば、一部を相続して、一部をしないという選択はできません。
そして、相続する対象の中に、場合によっては借金や連帯保証といったネガティブなものも含まれていることがあります。
いい部分、美味しい部分だけを相続することはできません。
本件で娘たちは、亡き父が生前に負った会社の借金に対する連帯保証の義務を相続してしまっていたのです。
本人たちは意識することもなく、遺産分割協議書に相続人として押印していました。
「そんなつもりはなかった」と後になって主張したところで、事実は覆りませんでした。
結局、母と娘たちは、父より相続した自宅を失い、破産せざるを得ないことになりました。
少なくとも、父親が死亡したときに「相続放棄」をしていれば破産を免れることができました。
相続放棄とは、相続開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述することで、相続することを免れる制度です。
期限内に自らアクションを起こさなければならない点に、ご注意ください。
資産を引継ぐことは意識していても、マイナスを引継いでしまうかも知れないという危機感がないケースは目に付きます。
連帯保証の場合はその存在が発覚しにくいため、特に注意しなければなりません。
誰かが亡くなったときには、相続権を持つ人は「本当に相続しても大丈夫なのか?」を一度立ち止まって考えていただきたいところです。
もちろん生前から状況をシミュレーションして、手を打って置けることがベストなのです。