「あいつは家業を俺に押し付けて、自分は東京で優雅に暮らしている。
それなのに、母の相続のときは『もっとよこせ』と裁判まで起こしてきた。
本当にあいつだけは許せない」
北陸でモノづくりの会社を営んでいたS社長は、奥村に相談を申し込んできました。
私が出演したNHKスペシャル『大廃業時代』を観たそうです。
話がお兄さんとの関係におよぶと、恨み節がとまらなくなりました・・・
会社はここ何年も赤字が続いています。
個人の資産を取り崩してどうにか会社を維持している状況です。
「もうこのあたりがもう限界だ」と社長は廃業を決断し、奥村に依頼をしました。
社長と奥村は、会社をたたむため、一緒にひとつずつ課題をこなしていきました。
従業員さんには、社長の決断を受け入れてくれるよう、集会を企画して説明を尽くしました。
資料を持って債権者たる銀行に出向き、廃業計画の説明と返済一時猶予の依頼をしました。
顧客には迷惑をかけないよう、他社の紹介など様々な配慮をしました。
そして、何度も社長自身に訪れる、迷いや後悔、葛藤に対する感情の整理を繰り返しました。
ゴールが見えてきた頃、S社長はふとこんな言葉を漏らたことがあります。
「今思うと兄へのうらみを燃やすことで、現実から目を背けていたんだと思う。会社のことを考えることが怖くて……」
そして、すべてが終わったとき「もっと早く廃業を決意しててもよかったね」と、社長は苦笑いをしながら、安堵の表情をうかべました。
こんなケースに関わらせていただくと、廃業や事業承継などの『会社の着地』が、とても人間くさい世界なのだとあらためて感じます。
コトの本質は法律や税金ではありません。
本質を見誤ると、問題との正しい接し方に失敗し、結末も悪くなってしまうことでしょう。
でも、こういう本質的で当たり前のことって、かえって誰からも教えてもらえません。
私が『着地戦略会』という会を運営している意図は、このあたりにもあります。