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銀行から「M&Aで会社を売らないか?」と度々提案を受けて困っている社長から相談された。
融資で稼げなくなった昨今、手数料を稼ごうとM&Aに関わろうとしてくる銀行はたしかに多い。
ただ、自行の融資先に会社の売却を進めるというのはいかがなものか。
本来の銀行の役目などを考えると違和感がある。
債務者に対する銀行の優位な立場を利用したビジネスであり、普通に自由競争の枠組みで捉えてはいけない気がする。
売り込まれていた社長は「銀行に土足で踏み込まれているような気がする」と嫌悪感を抱いていた。
この銀行によるM&A、お客さんにとってメリットがあるなら百歩譲って認めよう。
ところが、デメリットだらけだと僕は感じている。
ひとつに、M&Aの仲介手数料が割高になり得ることだ。
これは銀行に限らず、今の中小企業におけるM&Aの世界で起きている傾向である。
売り物である会社に対して、仲介手数料のバランスが合っていない相手と契約してしまっているケースが散見される。
また、銀行にM&Aを依頼したら、会社の(ときには社長個人の)すべての情報を知られることになる。
銀行というのは状況次第では利害が対立し、敵対関係になるかもしれない相手だ。
そんな相手への情報漏洩を回避するのは基本中の基本だろう。
買い手探しに銀行の自己都合が反映されてしまうことも懸念される。
たとえば買い手が、自行の融資先であることや、M&Aでさらなる融資を行える相手を条件とされるケースが考えられる。
自行のビジネスを優先させるためだ。
こんな仲介者である銀行の都合によって、良い買い手と巡りあえる可能性が減らされる恐れがある。
銀行が自行でM&Aの仕事を受けるのではなく、他のM&A専門業者を紹介してくるケースもあるだろう。
このパターンはどうだろうか。
まずこの手のパターンは、裏でなんらかの約束がなされていると見るべきだろう。
典型例は、M&A案件を業者に紹介したら、その業者から銀行に紹介料が支払われる約束だ。
社長としては、自社の売却で銀行まで得をする図式に違和感がないだろうか。
私ならば「裏で銀行に手数料を払うくらいなら、その分うちの手数料を割引しろ」とM&A業者に要求したいところだ。
また、銀行からの紹介となれば、M&Aの進め方や買い手がさしなどで、余計なしがらみが生じてもおかしくない。
たとえば「そこには売るな、こっちに売れ」と指図してくるかもしれない。
仕事を紹介してもらっている仲介会社は、当然、銀行の顔色をうかがって仕事をしてしまうものだ。
社長からの相談に対する私の意見はこんなところだった。
結論としては、自社のM&Aに銀行を関わらせる意味はないということになる。