後継者だからできる会社再生がある
借金が大きくなり過ぎた会社。
営業をすればするほど赤字になっている会社。
こんな会社をうかつに継いではいけません。自らの首を絞めることになります。
事業承継の世界では「親が作った借金を子供が引き継いで、苦労しながらも・・・」とお涙頂戴の美談が好まれます。でも、僕に言わせれば、そんな事業承継は下策です。
後継者のみなさんには、もっとしたたかに、戦略的に会社を承継してもらいたいと思います。
そして、一見「借金が大きすぎる」とか「稼げていない」とネガティブに思われる会社でも、まだまだ可能性はあったりします。
第二会社方式と事業承継
会社を再生手法する手法に『第二会社方式』と呼ばれるものがあることをご存知ですか。痛んだ会社を、良い部分と悪い部分の二つに分けて、良い方だけでも生き残らせようとする手法です。
たとえば過大な借金を抱えている会社で、でも借金の重荷さえなくなれば事業としてやっていけそうな会社があったとします。
このとき、借金と事業を会社分割などの手法を使って別の会社に切り分けます。すると事業を引き継いだ会社の財務内容は劇的に改善されますね。これならば事業を継続できるはずです。
こんな第二会社方式は、いくつかある再生手法のなかでもスピードやコスト、信用性の維持で優れています。
しかし、いざ使おうとするといつもネックになることがあります。
「誰がきれいになった新会社をやるのか」です。
だって、社長が「第二会社方式を使うので借金を返せなくなりますが、事業は引き続きやらせてもらいます」なんてお願いしても、そんなの都合が良すぎますよ。もちろん債権者は承諾してくれません。
個人保証があるでしょうから、強引にそれをやろうとしても難しいものがあります。
現場では、第二会社方式を使った後、整理された会社を担う人がいないケースが多いのです。
後継者のあなたならば、何かピンときませんか。
そう、この第二会社方式と後継者への事業承継の組み合わせは、大きな可能性を秘めます。
会社は、継がされるから、活用するへ
既存の事業承継の常識を変えてみましょう。
これまでは先代社長からの視点で、「継がせよう」という発想でばかり語られてきました。
それを後継者からの「いかに継ぐか」という視点に変えてしまいます。後継者は子供でも、血のつながらい第三者でも同じです。
財務内容の悪さは、承継後の後継者の首を絞める爆弾です。しかし、必ずしもそのまま継ぐ必要はなく、分社の手法を使っていい部分だけを取り出して継ぐことができます。
また、現状では稼げない事業になっていたとしても、提供する価値を見直すことで
稼げる事業に生まれ変わらせることができるかもしれません。
たとえば空室だらけのアパート経営から転換して、外国人向けのゲストハウスへシフトチェンジするようなイメージです。
私はこのような後継者目線で「既存の会社を活用するような事業承継のやり方」を
『リノベーション起業』と名付けました。
今までのような、後継者が会社を継がされる、という受け身からのスタンスは終わりです。これからは、後継者が既存の会社を活用する時代です。
会社をそのまま継ぐのではなく、加工して次代につないでいくのがスタンダードになるでしょう。
リノベーション起業のやり方
リノベーション起業のやり方を簡単に説明しましょう。
まず、後継者は会社を題材に何が必要かの選別を行います。
事業をいくつかやっている会社ならば、その中で残したいものは何か。必要な資産は何か。場合によっては一緒にやっていくスタッフも選別しなければいけないかもしれません。
選別した後は、その部分を別の会社に移して、後継者がそちらだけを経営します。
残された会社には、役に立たないものだけが残るでしょう。どうやっても黒字にできない事業や、銀行からの過剰債務などだけです。
これらは、会社ごと法的に処理してしまうこともできるし、細々と先代が営業しながら続ける場合もあるかもしれません。
この取組みにより後継者の会社は、一瞬で財務内容や事業内容が良くなるはずです。
しかし、事業本来の力がなければ、いずれ昔と同じようになってしまいます。今の時代に合わせた価値を提供できる事業を築かなければなりません。
これまでどおりでは、いつか上手くいかなくなるものです。この点は忘れてはいけません。
子供でもリノベーション起業ができるのか?
子供が後継者の場合に、
「そんな既存の債務の責任を負わないで、新しく作った会社だけできるのか」
と、疑問を持たれる社長がいらっしゃるかもしれません。
結論から言いますと、可能です。子供と言っても法律上は別人格として扱われます。子供だからといって、親の作った借金の責めを無条件に負うようにはできていません。
後継者に連帯保証をさせるな
あくまで法律上別人格だからこの手法が使えるとお話しました。
しかし、連帯保証などで既存の負債と法律上のしがらみができてしまったら、そうはいきません。
ときに子供や経営幹部などを、会社の借金の保証人として差し出している会社があります。こうなるとリノベーション起業を利用できなくなる可能性が著しく高めてしまいます。これだけは避けていただきたいものです。
銀行にはオープンに
リノベーション起業の話をすると、銀行に損をさせる結果であったり
銀行に黙ってコソコソやるイメージを持つ方が多いようです。
私はそんなことは言ってませんし、そのスタンスには大反対です。あくまで銀行にとっても悪い話ではない絵を描くべきです。
「普通にこのまま会社を廃業させるよりも、リノベーション起業に取組むことで、債権者への配当額を増やせます」
こんな話を持ち掛けられるようにしなければいけません。そして、情報をオープンにして、債権者からも同意を得ながらプロジェクトを進めるべきです。
さらに詳しく知りたい方へ
リノベーション起業については、詳しく説明しようとしてもとても書ききれません。
ご興味をお持ちの方は、私の本を読んでいただきたいところです。
(宣伝のようになって恐縮です)
『今ある会社をリノベーションして起業する~小商い“実践”のすすめ』
次代の転換期を迎えている現代において、新陳代謝を促し、新たな価値を生むこの手法は重要になってくるはずです。
100年以上続く老舗だって、ずっと同じことを繰り返してきたのではないと言います。変革の連続で続いてきたのだと。
そう思えば、代替わりのタイミングで、会社のリノベーションを行うことは合理的だと考えられます。
後継者と先代社長に、勇気をもってリノベーション起業に取り組んでいただきたいと願います。