「会社をたたんでもちっともお金が残らない!」
「下手したらマイナスになってしまうかも!?」
とあるクライアントの社長さんに、“もし今、会社をたたんだらどうなるか?”を、僕がシミュレーションした結果を披露しました。
「借金も、お金もほとんど残らない」
こんな結果がでました。
社長は驚きました。
そして元気がなくなってしまいました。
だって、ご本人は「それなりにお金は残るだろう」とうっすら感じていたからです。
いつでも廃業できるし、廃業しても何の問題もないだろう、くらいに考えていたのが正直なところではないでしょうか。
ところがです。
残せるつもりだったお金はありません。
しかも、足元の経営では数年間赤字が続いています。
このままでは時間が立つほどに、会社をたたんだ際、お金を残すどころか逆に借金が残る可能性が高まります。
どうしてこんな感覚のずれが生じてしまったのでしょうか。
それは決算書の簿価と、清算価値の違いです。
決算書の貸借対照表(バランスシート)には、資産と負債が載っています。
資産と負債を差し引いた純資産が、その会社の力(価値)だと一応は言えます。
クライアントの会社では、この数値が1億円以上あったのです。
しかしそんなものは、あくまで机上の話でしかありません。
いざ本当に会社をたたむときは、その通りには行かないのです。
たとえば、帳簿に載っている資産は、簿価ではなく、実在している現存価値になります。
こちらの会社の場合、ビルの査定を取ってみたら、帳簿に載っている不動産の金額よりも値下がりしていました。
また、電話加入権のように今となっては資産価値が皆無なものまで、決算書のバランスシートには計上されていました。
会社をたたむときには、電話加入権なんて帳簿に載っている価格で買ってもらうことなんてできません。
だから、評価無しとします。
こんな感じで再計算をしたら、資産は目減りしてしまいました。
一方の負債です。
決算書のバランスシートに載っている負債は、通常減ることはありません。
それどころか、バランスシートに載っていない隠れ負債が登場するのです。
たとえば、会社をたたむとなれば、店舗やオフィスを撤去しなければいけません。
ここで撤去費用が生じます。
でも、この費用はバランスシートに載っていないでしょう。
同様に、従業員を解雇するために退職手当が生じることもあります。
不動産を売るなら仲介手数料も発生します。
これらも計上されていません。
本当に会社をたたむときには、隠れていた負債が顕在化します。
クライアントの会社でも、会社をたたむ際の負債は増加してしまいました。
こうして再計算された資産から負債を引いたものが、清算価値となります。
クライアントの会社では資産は目減りし、負債が増えました。
結果、1億以上は手元に残ると思っていたものが、ほとんど残らないということが判明したわけです。
これがクライアントの社長が見た現実です。
このようなものの見方をする人は、専門家を含めて、どうやらほとんどいないようです。
それは会社をたたむことになる可能性を、視野に入れてすらいないのでしょう。
ゴーイングコンサーンだとかなんとか、続くことが前提になっているのです。
でも考えてみてください。
後継者がいない会社は、いつまでも続けることができるでしょうか?
すべての会社が、M&Aで売れるわけでもありません。
そして社長には健康や年齢の問題だってあるのです。
誰かに継がせられない会社であれば、たたむしかありません。
廃業です。
廃業は良くないことと思うかもしれませんが、倒産して多くの人を巻き込むよりよっぽどましです。
また、社長が急逝してしまって、とっ散らかった会社だけが残されれば、会社や家族に大混乱を巻き起こします。
日本国内の会社は、社長が高齢化しています。
そして、利益をまともに出せていない会社が大半です。
廃業という末路にたどり着く可能性が高い会社が、最も多いのであります。
廃業を想定してシミュレーションをし、備えておくのが適切なスタンスだということを、ご理解いただけるでしょう。
会社を廃業させたときに、どうなるか?
この結果は、たいがいシビアなものとなります。
多くの社長にとっては見たくない現実でしょう。
でも、そこをあえて見ることに意味があるのです。
クライアントの社長は、5年後に引退したいと考えています。
会社に後継者はいません。
社長と私は、算出された「会社をたたんだらどうなるか」の数値を、5年後に、どう変わらせておきたいかを考えました。
会社をたたんだときに借金が残るようにはしたくない。
さらには、ある程度の額を退職金としてもらいたい。
社長はこんな希望を語りました。
それでは、5年後に希望を描いた清算価値を実現するためには、年間でいくらの利益を出さなければいけないか。
その利益を実現するために、どんな行動を起こすか。
様々な方向からアイデアを出し合い、これからの行動計画が作られました。
このタイミングで、清算価値という厳しい現実を見ることで、現実が甘くないことを知っていただけました。
でも、まだまだ修正する時間が残っています。
今からでも、足元の赤字を止めて、利益が出るようにできれば、仮に廃業をすることになっても手元にお金が残せるようになります。
さらに、利益を出せる会社となれば、廃業ではなく、M&Aで他社に買ってもらって終えられる可能性も出てきます。
ほとんどの社長は、お金も時間も無くなり、切羽詰まってから私のところに相談にきます。
でも、その時にはもう選択肢がほとんど残されていなかったりします・・・
そういう意味で、クライアントの社長さんと一緒に、ビジョンを創っていくこのような仕事が増えるとうれしい限りです。
終わらされるのではなく、自分でゴールを創造していく。
それを支援するお仕事です。