ファシリテーターを加えて話を詰める
親子関係が相当に悪化している親子でした。
創業者である父親と専務たる息子。
もともと合わない二人だったものの、さらに経営方針をめぐり対立が激化。
実質的な経営権は、従業員や外部協力者からの支持を受けている専務がにぎっていました。
ある時、社長の椅子を譲り会社から去って欲しいという要求を受けた社長は、「そこまで言うなら分かった。代表権は譲る。ただし退職金などはしっかり払ってもらう」と条件を出しました。
売り言葉に買い言葉だった面もあったのかもしれません。
それ以降は、退職金の金額等の折り合いがつかず、感情的なもつれもあり話し合いが機能しなくなってしまいました。
お互い意地になっていたのでしょう。
間に入って緩衝材となる
このタイミングで奥村が会社の顧問として入りました。
まず、膝を付け合わせて社長と専務と話を聞きました。
会社のこれまでの経営であったり、個人のこれまでの人生であったり、と。
数字に現れないような、価値観や考え方の傾向を知ることが目的です。
こうすることが案件に寄り添おうとする姿勢を伝え、私への信頼にもつながるのかもしれません。
なお、このケースでの私の立場は誰かを代理するものではありません。
特定の人間の利益を高めることを目的とするのでもありません。
双方の間に入り、論点を明確にして落としどころを見つけるファシリテーターのような役割です。
当事者が直接話をしようとすれば、対立感情が先だって冷静に考えられません。
私を介して意見を伝えることで、建設的な話ができるようになります。
こだわりの本質はどこにあるのか?
次に、詰めるべき論点を並べ、一つ一つ希望を聞きます。
「退職金はいくら欲しいか」「退職後の会社との関係をどうしたいか」などです。
語られる言葉を、額面通りに受け取らないように意識しておくことも大切でしょう。
本音が素直に出てこない場合があります。
もっと別の原因が根元のところに引っかかっている場合もあります
たとえば「退職金10億円欲しい」と社長が法外な条件を要求しているとします。
それに応じたら会社は潰れます。
でも、その根っこを深く探っていくと「創業者である自分をもっとリスペクトしてほしい」という願いが埋まっていたりします。
案外、本人も自分で気づいていないかもしれません。
根っこにある原因が分かったならば、先が見えてきます。
このケースなら退職金とは別の方法で、創業者の気持ちを満たしてあげられる手段を見いだせればハードルを突破できる可能性があります。
細部まで論点を詰める
事業承継での合意を形成するに大切なことは、各論まで一気に詰めることです。
社長を交代するという方針が決まったならば、時期や条件、やり方など、細部まで話をまとめてしまわなければいけません。
これを怠ると、細部を詰め始めたときに「話が違う」となって、決まっていた大枠まで台無しになりかねません。
この事例でも、一度は地元の有力者が間に入って「円満に社長交代をしていこう」という方向に話は決まりました。
しかし、後に「退職金はいくらにするか?」「社長の持つ株式はどうするか?」という細部を詰めはじめたら、話し合いは暗礁に乗り上げ、円満な社長交代という決定事項すら揺らいでいました。
大枠を押さえつつ細部まで詰める必要があります。
事業承継を分かっている人間を交えて取り組む価値が高い部分です。
双方が譲歩し、ほどほどの結論へ
なんとか話はまとまり、私がその合意内容を書面に落しました。
また、外部に向けた案内や、社内向けのアナウンス、金融機関への対応などを助言。
役員変更の登記や退職金等の決定事項の履行などを管理し、新体制スタートへのガイドを行いました。
話し合いはついたものの、親子間の不仲が解消されたわけではなく、気がかりは残ります。
しかし、お互い立場が変わることで相手に対する見方が変わり、関係性が改善された他のケースを見たこともあります。
社長も専務も、どちらも結果に大満足はしていないでしょう。
それでも、おたがい「ほどほどのところに落ち着けた」とスッキリできたと感じています。