これまで何度も社長が急逝してしまった会社の支援をしてきました。
また、社長がお亡くなりになった後の対応を誤ったため、苦しい思いをすることになった例も見てきました。
その経験から、中小零細企業の社長が急に亡くなったときに、気に留めておいていただきたいことをまとめてみます。
社長が亡くなったとき起きうること
こんにちは、事業承継デザイナーの奥村聡です。
この記事では「在任中の社長が亡くなることで何が起きうるのか」を現場でのトラブルをもとに考えてみます。
従業員の給料や仕入れ代金が払えなくなるときも
小さな会社となればなるほど、社長の役割が大きくなります。
役割分担がなされておらず、社長が一人が欠けただけで業務が麻痺してしまうケースだってあります。
ある近畿の会社では、社長が経理のすべてを行っていました。
他の社員は数字も知らなければ、ネットバンキングのパスワードも知らされていません。
社長が急逝したときには、仕入れ先への支払いすらできない状況に陥ってしまったのです。
とにかく支払いを待ってもらえるようお願いをし、お金をかき集めたりしながら急場をしのぎました。
しかし、同様のケースでそのまま会社が潰れることだってあり得ます、
社長の急死の際、まず一番大切なことは、社長不在のあおりをうけて事業まで殺さないことです。
相続人が会社をたたんでしまった
別の会社では、社長が亡くなったことで、会社の株式が妻や子供たちの相続人に承継されました。
妻子は亡社長の会社経営にはタッチしていません。
そして、相続人たちはすぐに株主の権利を行使して、あっというまに会社を解散させてしまいました。
幹部だった人から後から聞いた話では、会社の解散は寝耳に水だったそうです。
事業にはしっかりとした収益基盤があり、今後も利益を出せる見込みもあったとのことです。
「潰すんだったら、自分にやらせてもらいたかった・・・」
もったいないことです。
株式を持っていれば会社の出処進退の意思決定ができます。
別の人間が株式を持てば、こんな結末になってしまうことだってありえるのです。
事業を生き残らせるため、先に手を打っておきたいところです。
顧客ばなれで売上が激減することも
中小企業の場合、社長の「顔」で仕事をしているケースがよくあります。
その社長が死亡してしまえば、顧客から切られてしまうことだって不思議ではありません。
すると売上はガタ落ちし、会社の存続危機を迎えてしまうことも・・・
会社への吸引力が亡社長個人にあったのならば、従業員だって大人しく会社に留まってくれるのかはわかりません。
従業員がすぐに辞めたり、新社長の言うことを全く聞かなくなって混乱したケースもありました。
後継者が借金と個人保証で潰されることも
社長が急死した会社に後継者がいたとします。
普通の流れでは、亡社長に代わって代表者に就任し、その登記をすることになるでしょう。
本来ならば、社長への就任を一歩立ち止まってもらいたいところです。
しかし、社長が不在となると様々なことが滞ってしまうので、後継者候補は急がされます。
銀行が個人保証の引継ぎを迫ってくることもあるでしょう。
社長が代われば銀行がやってきて、個人保証の引き継ぎに関する書類に押印を求めてきます。
これを押してしまえば、会社の借金を個人としても背負うことになってしまいます。
本当に大丈夫なのでしょうか。
会社の財務内容をよくわかっていない後継者が、前社長の死亡をきかっけに、個人保証を引継いだケースがありました。
すでにその時点で会社の業績や財務内容はかなり痛んでいたため、後継者が社長に就任した数カ月後には破たんしました。
後継者は個人としても借金の責任を負わなくてはいけない状況です。
結果、破産をし、自宅を失うことになりました。
個人保証をする前に、本当に大丈夫か会社の状況を見極めるべきです。
そして、そのまま会社の連帯保証人になるのが得策ではないと思うならば、何らかの策を講じなければいけません。
社長を相続して家族まで破産・・・
「家族が亡くなったから相続するのは当たり前」ぐらいの認識の方が多くて冷や冷やしています。
本当に相続しても大丈夫なのでしょうか。
一度相続すれば、その死者のすべてを相続します。
資産ばかりだったらいいのですが、負債や損害賠償などのマイナスだって引き継ぐことになります。
美味しいとこどりはできません。
マイナスの中には借金だけでなく、連帯保証もその対象として含まれます。
小さな会社の社長ならば、会社の借金を個人保証しているのが普通です。
より注意しておかなければいけません。
もし会社が破たんすれば、払うことができなくなった借金は、連帯保証人に請求されます。
亡き社長がしていた個人保証で、借金の請求が相続人にまわってくるかもしれないのです。
私のクライアントでも、印刷会社を経営していた父をうっかり相続してしまったため、数年後、妻と娘たちが破産する羽目になったケースがあります。
娘たちは会社の経営には全く関与していなかったのに、個人保証の責任を取らされてしまったのです。
悲劇です。
うかつに相続することに危機感をもっていただきたいところです。
万が一に備えて社長は何をしておくべきか
ここからは、社長急死問題に対して、どんな対策、準備をしておけばいいかを考えます。
会社まで急死させない最低限の権限移譲
社長がいなくなったとき、会社の生命維持を止めてしまうものはないか。
この問いから、打っておくべき手を考えてみましょう。
たとえば、お金回りが社長しかわからないのであれば、誰かにそれを伝えておくことです。
生きているうちに伝えることが不安なら、家族や従業員にエンディングノート等を使って伝えられるようにしておくことも考えられます。
通帳や印鑑のありか、暗証番号などを伝えられるようにすることで、「お金が払えない」という急場の事態を回避できます。
その他でも、社長のところでブラックボックスになっていることはありませんか。
お客さんとの契約関係や、仕入れ先や外注先との取り決め。
このあたりも権限を委譲できるようにしておくことで、社長の死亡で起きる落とし穴を回避できる可能性が高まります。
会社のことを整理できる手立てを打つ
上記の取り組みで、急場をしのげるようになったとします。
それでも、もっと根幹的な視点で、会社をどうするのかまで考えなければいけません。
従業員に継がせるなり、他社に売るなり、廃業させるなり。
また、それを担う人は誰なのか。
このあたりも事前に手を打っておかないと、ことはスムーズに推移しません。
たとえば、あるクライアントの会社の社長は私に「自分に何かあったら、後の会社の整理は頼む」と依頼をしています。
後継者がいなく、また借金も大きい会社です。
相続人たる家族は相続放棄をする可能性が高いので、下手をすると株主が誰もいなくなり、会社の始末をつけることすらできなくなります。
そこで、社長が亡くなったときには、私に株式が渡るような仕掛けをしているのです。
そのときがきたら、私は状況を見定めて、事業を他社に譲渡したり、廃業を進める判断をすることになるでしょう。
社長亡きあとの会社の方針決定と、その実行を約束しているのです。
このようなイメージで、あなたの会社の「その後」と「それを実行する人と方法」を検討していただきたいところです。
相続放棄でリスクを回避
中小企業の社長をうかつに相続する危険性はお話しました。
場合によっては相続放棄をさせたほうがベターなケースがあります。
なお相続放棄については3点注意していただきたいことがあります。
まず、相続を放棄したければ、家庭裁判所の手続きが必要だということです。
自分で放棄を宣言しても、それだけでは足りません。
2点目は、相続放棄ができる期限が定められているということです。
原則、自分が相続人だと知ってから3カ月以内となっています。
そして最後は、相続人のようにふるまうと本当に相続人になってしまうという点です。
たとえば、遺産分割協議に参加して協議書に押印する行為は、相続人だからできることです。
故人の資産に手を付けることも相続しかできません。
当人がそのような行動をとるのは「自分が相続人だと認めたから」ということにされてしまいます。
後になって「やっぱり相続放棄をしたい」となっても、もう手遅れになってしまいます。
生命保険を正しく使う
社長の死亡対策として、真っ先にイメージするのが生命保険でしょう。
「社長が亡くなったときに、会社の借金を返済できるように」と、保険の営業マンから提案されて受け入れた方もきっといるはずです。
この対策もケースバイケースです。
借金の額によっては有効ですが、どちらにせよ返済しきれない額にまで借金が膨らんでいるようなら焼け石に水です。
もう会社の借金を返済するという固定概念は捨て、「いかに家族を守るか?」という発想でものを考えたほうがいいかもしれません。
生命保険の死亡保険金は相続財産ではありません。
よって、相続人が相続放棄をしても死亡保険金は受け取ることができます。
連帯保証のリスクを相続しないで、家族が金銭を受け取れる道を示しています。
生命保険の額だけでなく、契約者と受取人も、もう一度見直してみてはいかがでしょうか。
別の話では、会社が前社長に生命保険をかけていて、受取人が会社になっていたものの、死亡保険金を受け取れないケースがありました。
死亡保険金でも、会社を代表して請求する者が必要です。
しかし、代表取締役は死亡しています。
そこで、新たな役員を選任する必要があったのですが・・・
社長を相続する権利を持っていた者たちは、みんな相続を放棄してしまいました。
結果、株主が存在しないことになり、新しく取締役を選任することができなくなったのです。
生命保険会社は、前社長が代表取締役のままでは死亡保険金を払えないの一点張り。
会社に残された者たちにはどうしようもない状況に陥りました。
「いざというとき、ちゃんと死亡保険金を受け取れるのか」
ここまで確認し、場合によっては手を打っておかなければいけません。
最後に (社長急死の問題への対応)
この記事を読んでいるあなたは、どのような状況に置かれていますか。
社長であるあなたが、ご自身の死亡後のことを危惧して読んでいらっしゃるならば、事業承継デザイナーの奥村は相談大歓迎です。
「まだ急な話ではない」という場合も、奥村が主宰する『着地戦略会』に登録いただければ、今後も役立つ情報をご提供できます。
もし、すでに社長が亡くなってしまった後でこの記事を読んでいらっしゃるならば、急を要します。
問題解決のために指揮をしてくれるガイド役を確保すべきです。
なお、このテーマは会社経営から相続まで、幅広い分野にまたがる問題です。
弁護士や税理士などの資格業ならば誰でも対応できるというわけではありません。
最適な相談相手を探してください。