M&Aに着手していた社長から夜に電話がありました。
私の顧問先で、数日後に売却の契約を結ぶという状況です。
「実は、会社、売りたくないんです・・・」
理由を聞くと、買い手への不安や不満、M&A業者への文句を口にしました。
しかし私には、取ってつけたような理由に感じられます。
さらに質問を続けました。
そうして見えてきた本当の理由は、やっぱり社長で居続けたい、でした。
税理士からのすすめがあって、軽い気持ちでM&Aに着手。
とんとん拍子で相手が見つかり、金銭的な条件も悪くない。
流されるようにゴール手前まで来てしまったところで、ふと我に返ります。
「本当にこれでいいのか?」
会社を売った後の自分の姿を意識したら、心が拒絶反応を示しました。
頭では、これがいい、いまさら戻るわけにはいかない、と分かっているのに・・・
本心と現実の乖離で、せっかく進んでいた話がとん挫してしまう。
無理して進めて、後悔することになった。
会社の着地の現場では、この手の話がいくらでも転がっています。
ありがちな失敗は、損得勘定や、税金や法律などのテクニカルなところから入ってしまったときによくある落とし穴だったりします。
では、どうすべきか?
『社長の本心』からはじめなければいけないのです。
中小企業なんて社長次第です。
権利も義務も責任も、すべて社長が負ってきました。
なのに、会社を継がせる、たたむ、売ると言った“会社の着地”の場面だけ、自分の本心をわきに置きっぱなしにして進めることなんてできません。
むしろ、最後の最後だから、一番たいせつなポイントです。
「会社のために・・・」
「社員のために・・・」
会社の着地について話し合いをしているとき、社長がよく口にする言葉です。
しかし、どうも口先だけの軽い響きに感じる場面は多いもの。
あたり障りないきれいな言葉を、とりあえず口にしてしまっているのでしょう。
社長の本心が、ここにいないのです。
これじゃ上手くいきません。
前へ進む力がありません。
会社の着地の本質を、一緒に考えてもらえますか。
それは、承継や廃業といった、会社をどうするかの問題であると同時に、社長個人としては出処進退の話でもあることが分かります。
「自分は社長をやめるのか?」
「どうやってやめるのか?」という。
ゆえに、社長は自分の心に落とし前を付けなければいけません。
もちろん葛藤が生じます。
重大な決断がそんな簡単にできるわけありません。
会社の着地を決断するためには、個人の軸が必要です。
軸とは、自分の生き方であったり、価値観です。
軸を見つけ、強くするために、あらためて自分の人生と向き合ったほうがいい場合も多いことでしょう。
自分の内面を定めることが先。
それができてから、会社をどうするかを考えるのが正しい順序です。
社長ファーストです。
対話をしましょう。
これまでの社長の人生は?
そして、これからはどうやって生きていくのか?