学生の皆さん、こんにちは。ヤメ大の学びはいかがでしょうか。
いろいろな感想があることでしょう。
今の世の中では、とにかく時間をかけないことが良いこととされているようです。学びの世界も同様です。いかに、簡単か、手っ取り早く学べるか、が求められています。だから「成功するために必要なたった一つのこと」みたいな単純化されたコンテンツが量産されます。
学びにおいて、時短で簡略的に学ぼうとする姿勢はどうなのでしょうか。少なくともヤメ大の「社長人生のおわりをよきものにする」というテーマにおいて、それは間違っていると思います。
たとえば昨今、国や経営関連団体は中小企業の事業承継を推進することに注力しています。そんな彼らのメッセージを一言でいえばこうなります。
「社長は早く会社を次に譲ってください、以上。」
これで「了解!」と納得して社長を辞められますか。とんでもないですね。
人は正論だけじゃ動けません。頭でわかっているだけでは動けないのです。皆さんが将来することになる会社の着地の決断は、あまりに重大なもの。これ以上の決断は人生において他にそうありません。
じっくり、深く、学んでいきましょう。
子供が会社を継ぐ時代は終わり?
さて、前回は「廃業」という着地方法についてお話ししました。今回からは社内承継に入ります。
同じ社内承継でも、さらに2つに分けることにします。
①親子(子供や配偶者)に会社を譲るケース
②会社の従業員や経営幹部に会社を譲るケース
今回の講義は①の子供への承継を中心とした「親子承継」についてお話します。
甥っ子姪っ子や、兄弟などの親族への承継の場合は、①と②の両方にまたがるので、状況に合わせて読み取ってください。
一昔前は、親が経営者をやっていてそこに子供がいれば、会社を継ぐのが普通でした。しかし、今はそんなステレオタイプの事業承継が行われる割合はものすごく減っています。かつては6,7割が親族内での事業承継でしたが、帝国データバンクの2022年の調査では、親族内承継は34.2%まで下がりました。
おそらく今後、従業員承継に逆転される可能性が高いと思われます。親子承継は、そのうちM&Aにも抜かれるのではないでしょうか。
なぜ、親族承継が減っているのか。私が考える理由は主にふたつ。
理由のひとつは、個人の生き方を優先する世の中になったことでしょう。家業を守るよりも、自分の生き方が優先される風潮を感じます。子供たちは「土曜や日曜も休めない自営業なんて嫌だ」と、サラリーマンを選んだりします。
もうひとつの大きな理由は、中小企業の経営が昔ほど稼げなくなったことでしょう。
戦後から長く続いた経済成長という環境では、会社経営は「おいしさ」がありました。普通にやれば売り上げは増えるし、贅沢もできるし、手元にお金も残せます。
しかし、成熟社会となってからは、そうは問屋が卸してくれません。楽には稼げなくなったし、業界の先行きも見えません。
「子供に会社を継がせて苦労をさせたくない」
こう考える社長が増えました。
会社を継ぎたがらない子供にYESと言わせることはできないか?
「子供に会社を継がせたいのですが、どうやって説得すればいいですか?」
たまにこんな相談を受けます。
これに対して「本人の意思をコントロールする方法はないし、無理強いはしないほうがいい」というのが多くの場面での私の回答です。
無理やり社長をやらせれば、本人は被害者意識を持つことになるでしょう。腹を決められていない人間によい仕事ができるわけありません。無理強いをした先代は、後継者に恨まれてしまいます。
もし、子供を後継者にすると思うならば、本来は、子供が小さなころから刷り込まなければいけなかったのでしょう。
社長である親が生き生き働き、社長業のすばらしさ、経営の面白さを身をもって語り続ければ、子供は「自分も将来社長になるのが当然だ」と思い込んだかもしれません。
逆に「あー疲れた」とか「社長はたいへんだ」なんて愚痴を日々聞かされたら、子供は社長になんてなりたくなくなります。
そんなわけで、子供がいい年齢の大人になってから焦ったところで手遅れ。勝負はすでについてしまっています。
ついバッサリ切り捨ててしまいました(ごめんなさい)。
ただ、すべての子が、会社を継ぐか否かを明確に決めているわけではありません。YESとNOの間にいる子供だってたくさんいるはずです。この場合、まだチャンスはあるのでしょう。
とはいえ、このときも強制をしてはいけません。説得しようとしてもいけません。
先代が積極的に会社を継がせようとするとロクなことになりません。下手をすれば逆効果になります。
子供に本を読ませたいという親に対して、思想家の内田樹氏が「だったら禁書にすることだよ」と答えた話を聞いたことがあります。
親が本を読めと言えば言うほど、子供は本から逃げようとする。
しかし、「この本は読んではいけない」と言いつつその本を机の上にでも置いておけば、「何が書かれているんだろう?」と思った子供が、興味を抑えられなくなって本を手に取るということです。
どこか事業承継の話にも通じるものがあります。
こんな話もありました。
どの本だったか忘れてしまいましたが、その本の著者は親から「会社を継いで社長になれ」と迫られたそうです。著者は、いつも父親が上から押しつけてくることが許せず、そのときも反発して会社を継ぐことをやめてしまいました。
でも、もし親に頭を下げられて「頼むから会社を継いでくれないか」とお願いされていたら、そのときはNOとは言えなかっただろう、と記していました。
あらためて、無理に会社を継がせようとしてはいけません。
先代社長としては「あなたに会社を継いでほしい」という意思を明確に表示し(気持ちをちゃんと伝えていない社長が実に多い)、「あなたは会社を継ぐこともできる」という選択肢を目の前に置いてあげるくらいがちょうどよいでしょう。
それで継ぐか、継がないかは、あくまで本人次第なのです。
継がせたい気持ちからくる積極的な言葉や行動は、ストイックに抑えていただきたいところです。
距離が近すぎる親子関係の難しさ
親子承継が上手く進まないことはたくさんあります。
うまくいかないかなりの割合は、親子関係特有の「距離の近さ」が原因になっていると感じています。
親子だから良い面、やりやすい面ももちろんあります。でもそれ以上に、距離が近い親子だからこそ、状況がよけいにこじれてしまったケースが目につきます。
一度は息子が家業に入って「社長のところも後継者ができてよかったね!」なんて周囲から言われた。でもいつしか息子が、親の下で働くことに我慢がならないようになり、会社を飛び出して去ってしまった。こんな話はちまたに掃いて捨てるほど転がっています。
頭ごなしに叱られたり、年がら年中小言を言われたり、自分の思うようには一切やらせてもらえなかったり……。後継者候補のストレスが許容範囲を超えてしまったのでしょう。
家族だからこそ、ある種の「過剰さ」が起きやすいのです。
これがもし、相手が血のつながらない従業員であれば、そこまでお互いぶつからないで済んだりもするのでしょう。ところが親子では歯止めがきかなくなってしまうのです。
「俺だって好き好んで口を出しているんじゃない。あいつには覇気がないし、自分から動かないから仕方ないんだ。こんなんじゃ社長は務まらない。あいつのためだ」
親である社長は言います。
では、質問をさせてください。「子供が後継者としてふさわしくないのであれば、どうして会社を継がせようとするのですか?」と。能力ややる気が足りないのに、その人間が会社を継ぐという前提がよろしくない気がします。こういうのは不幸の素です。
一度冷静になって、立ち返ってみましょう。社長であるあなたは、何を基準に後継者を選ぶのでしょうか。
子供がいるからといって必ずしも継がせなければいけないわけではありません。
アニメ映画の名作を連発したスタジオジブリの宮崎駿氏は、社内に息子の吾郎氏がいましたが、結局彼には継がせませんでした(「自分にその力はない」と、吾郎氏も継ぐことを避けたがっていた様子です)。最終的に会社は、日テレに売却されています。
「会社はこうするしかない」という思い込みに囚われてしまっている社長は多いところです。もっと柔軟に発想していただけるといいですね。
後継者は放置すれば勝手に育つ?
事業承継における親である社長の積極性は、後継者育成の面でもマイナスに作用しているケースがあります。
社長が前のめりになり、その分後継者の子供が消極的になる……。これでは人は育ちません。
社長であるあなたは、社長になってから大いに成長したはずです。そうでなければ会社経営なんてできないし、ここまで会社を潰さずに続けることはできなかったでしょう。
では、何があなたを成長させましたか。自主性、意欲、わくわく感、現場体験、自分なりの工夫、トライ&エラー……。成長は、自分なりに試行錯誤してきた結果ではありませんか。
後継者に対して「自主性や意欲などが足りない」と不満やもの足りなさを感じていらっしゃるのかもしれません。しかし、だからといって社長が口を出し、手をだしたら、自主性の芽まで殺してしまいます。創意工夫の精神を奪う結果になるだけです。
私は、後継者として会社を大きく成長させた社長を何人も知っていますが、共通するのは、社長になる前に自分なりに考えて行動を起こしていた点です。好き勝手やっていたという表現のほうが適切な場合すらあります。
奈良で伝統産業を営む家業を飛躍させた中川政七商店の十三代社長もその一人です(今は社長のポジションをすでに他者へ譲っています)。
彼は社長になる前、第二事業部を担当していました。親である先代は第一事業部にいて、第二事業部のある建物からは場所が離れています。先代の目が届かないのをいいことに、適当な報告だけして、自分が思うように変えてしまったと語っていました。
千葉の諏訪商店の諏訪寿一社長も同様でした。彼の代になり、事業規模は大きく拡大、みやげ物の製造から販売までを手掛ける事業体制を構築しました。その彼も専務の時代に、考え方が合わない幹部などの人員整理を大胆に断行したそうです。
社長になる前にやんちゃをしたことがある社長は「あのときの経験が、自分の成長や後の会社の発展に生きた」と口をそろえて語るのが興味深いところ。
私の見立てでは、その取り組みの是非はどうでもいいのです。たとえば、幹部を辞めさせたことが良いことか、悪いことかの問題ではありません。後継者となる人間が、自分なりに「これが大切だ」「こうするしかない」と考え、行動を起こしたことに意味があります。
子供の成長のために社長のあなたができる最大の支援は、口や手を出さず、相手が動き出すことを待つことなのでしょう。
口で言うのは簡単ですが、実行するには難度が高い課題です。
一方で、子供にビクビクする親も
子供との関係で社長のほうが「上」の立場であることを想定して話を進めてきましたが、実は、逆のケースが徐々に増えている気がしてなりません。
子供のほうが強いのです。子供が親に向かって「こうしろよ。だからお前はクズなんだ」なんて言い放っちゃったりするのです。これに対し、親は子供へ異常に神経を使い、その発言や行動にびくびくしていたり……。
仕事におけるインターネットやITの重要性が高まり、若い人のほうがそれを使いこなせることは、調子に乗らせてしまう原因の一つになっている気がします。
子のほうが強くなる傾向は、なにも中小企業の事業承継だけに限った話ではないのでしょう。家庭内や会社内など、世の中全般の傾向に感じます。
自分のほうが上だとばかりに、家の中で親に対して要求ばかりを繰り返す子供。仕事なんてロクにできないのに自分の権利ばかり立派に主張する従業員。根っこは同じところにあるのではないでしょうか。
本来指導をすべき立場だった人が、相手に責任を押し付けてこなかったことが、こうした結果に結びついてしまったと私は考えています。
責任を押し付けるという言葉のイメージはたしかに良くありません。しかし、これを避けてはいけないと思うのです。
相手の責任をきっちり自覚させない。なんだったら先回りして責任を自分が背負ってあげる。社長や親にこんなスタンスの人が増えていませんか。
こうして責任の所在がおかしくなってしまっているのです。
後継者や子や従業員は、責任を負っていないのに権限だけあります。こうなれば言いたい放題、やりたい放題です。
はたから見ていると、子の暴走を許す社長はだいたい肚を括れていません。
たとえば「子供に会社を辞められては困るから」と、ハレ物に触るように子と接します。それでは子供が余計に増長します。子供だけでなく、スタッフとの関係性でも同じです。
では、どうすれば肚をくくれるのか。
究極の結末を受け入れることでしょう。
それって何か、もうおわかりですね。そう、すでに学んだ廃業です。
「会社を誰にも継がせられなければ、最終的には会社をたためばいい(たたむしかない)」と、前もって覚悟しておくことです。やはり退路という視点が重要なのです。
家族内承継における社長と株式の問題
社長という役割、機能を譲る点について語ってまいりました。いわばソフト面です。これからはハード面の形式を整えるためのお話に移ります。
子供等の家族を社長にするにはどうしたらいいか。
形式面では、登記の代表取締役を息子にすればいいだけです。株式を占有しているオーナー社長ならば簡単にできます。
問題はその株式はどうやって承継させるかです。
そもそも後継者に株式を承継させる必要があるのかという議題がありそうですが、やはり中小企業の場合、社長が100%の株式を押さえておくことが基本です。「株主総会の特別決議ができる3分の2があればいいんじゃない?」という人もいますが、あくまで100%です。
少しであっても、株式を他人に持たれることで、面倒が引き起こされることがあります。社長の自由が害されるリスクがあると考えておいてください。
では、株式を譲るタイミングはどうするか。
本来ならば、子供に社長の座を譲るときに株式も渡したいところです。
でも、税金や買取資金の問題が生じがちです。株式の価値が高くなっていれば、その株式を子供に贈与したら大きな贈与税がかかります。一方、贈与税を避けるために売買にすれば、後継者は買い取り資金を用意しなければいけません。
正直そこまではしたくない、というケースが多いでしょう。
ただし私は個人としては、たとえ子供が後継者の場合であったとしても、後継者は先代から株式を買い取るのが本筋だと思っています。
「株式はタダでもらって当然」という前提は間違っています。そこには甘えや馴れ合いが生まれてしまいます。後継者が本当に会社を継ぎたいなら買い取ってでもやるべきです。
会社経営というのは、それくらいの覚悟をもってやるものではないでしょうか。
自分でも厳しいことを言っているし、状況によっては非現実的なことを言っているとわかっています。それでも、会社の価値すら分かっていない後継者が、「親から無理やり会社を継がされた」などと言っているのを目にすると、脳天チョップを打ちおろしたくなるのです。
一般的には、大きな課税を避けることを目的に、贈与で生前に株式を後継者に渡せるだけ渡し、残った部分を相続で引き継がれるように設計するケースが多いことでしょう。
この流れでは、株式を持った先代社長が亡くなったときに、後継者への株式承継が完了します。
「株式をすべて譲らない」という先代の心理
あなたは生前のうちにすべての株式を子供に譲ることに納得ができますか。
「社長、株式の一部は手元に残しておいたほうがいいですよ。これからも会社への影響力を保つためです!」
ちまたの専門家やコンサルタントは、こんな指導をすることが多いようです。要は、自由にさせないためにすべての株式を後継者に渡してしまうな、ということですね。
私は、このアドバイスを好みません。先代社長の会社への執着を助長する恐れがあるからです。
理屈の上では、専門家の助言も間違っていないのでしょう。でも、この正しさは「会社に対して影響力をもち続けたい」という先代の潜在的な願望と結びつきやすいところです。
人間には支配欲があります。誰にでも、多かれ少なかれあるはずです。影響力を持っていることは気持ちがいいことでしょう。
しかし、いつまでも会社にこだわり続けていては、先代は自分の次の人生と向き合えません。
会社を譲るのであれば、すべて後継者に委ねたほうがいい。逆に、それが嫌ならば、完全燃焼できるまで自分が社長でいればいい。私の考え方です。中途半端はよくありません。
また、やめた先代がいつまでも会社に口を出すとロクな結果になりません。
後継者としては「だったら自分でやれば」とヘソを曲げたくもなるところ(今さら社長の座を返されたら困りませんか?)。
あなたが「形式上は社長を退いても、会長として会社への影響力を保持してやろう」という思惑であれば、後継者はそういう臭いを敏感に感じ取ります。これでは覚悟も責任感も生まれません。
「株式を何株わたすか」「議決権はどうするか」なんて所詮上っ面の話です。はるかに大切なことは、先代社長と後継者双方のマインドです。
議決権を手元に残すという小細工によって、風通しが悪くなってしまわないか。後継者が前向きになれない状態になってしまわないか。
見落としてはいけないのは、ここです。
相続で株式を譲るなら相続税までチェックする
先代社長が亡くなるまで株式を持ち続け、相続で株式が後継者に渡るケースを考察してみます。
この場合、先代の相続が発生したとき、後継者にすみやかに株式が承継されるようにしておくため、事前の仕込みが大切になります。遺言などを活用して、株式がしかるべき人間に届けられるようにしておいていただきたいところです。
会社は生き物ですから、流れを止めないようにすることが超重要です。
生前に何も手を打っておかないと、相続手続きで流れが止まってしまうのが普通です。その間に、会社が機能不全に陥ってしまうかもしれません。
株価が高くなっているときは、税金のことも考えなければいけません。
そもそもあなたは、自社の株価を知っていますか。
費用は掛かるでしょうが、顧問税理士に計算を依頼してみることをオススメします。
そこまでしたくないという方でも、自社の株価が高いか否かの雰囲気くらいは押さえておくべきです。簡単な話、バランスシートの純資産が大きければ株価も高いのです。生前贈与にせよ、相続にせよ、株式の承継については常に税金の問題がついて回ります。
逆のパターンだってあります。借金が大きくて純資産がマイナス(=債務超過)になっているケースです。こんな会社でも事業承継と無関係ではいられません。むしろこちらの方がより慎重な行動が求められます(なのに、世間ではほとんど語られることがない)。
債務超過の会社を後継者に継がせるべきなのでしょうか。
原則的な答え方では、NOです。後継者が過大な負債を背負わされることを意味するためです。
後継者が経営して、利益を出し、債務超過を解消できる目途がつくのであれば継いでもいいのかもしれません。しかし、ソロバンもはじかず、勢いだけで債務超過の会社を引き継ぐというのは自殺行為だったりします。
ときに、会社が債務超過なのに「子供は会社を継ぐのが当然だ」と思っている社長がいます。何も考えないで債務超過の会社を継いでしまい、後になって嘆く後継者もいます。申し訳ありませんが、認識が甘すぎます。
会社が債務超過の場合、社長個人に関する相続も要注意です。会社を継がないからといって安心してはいけません。
このあたりは追ってお話をさせていただくことがあるでしょう。
あらためて、債務超過の会社の事業承継は危険です。「債務超過の会社を無策で継がせちゃダメ」と押さえておいてください。
