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第7回 小さな会社でもちゃんと売れています!【M&A論】

小さな会社のM&Aについてお話します。

もう一度全体を整理しておきましょう。全体像から理解することは大切です。

まず、社長のおわりには、強制的におわらされる場合と、自らおわる場合があります。後者を会社の着地と私たちは呼び、廃業、社内承継、M&Aがあります。

今日は3つめのM&Aです。

「うちは社内承継させるから、M&Aは学ばないでいいや」

このように手を抜こうとしている学生さんはもちろんいませんよね。

ここまで学んで感じていただいていると思いますが、あるひとつの着地パターンについて語っていたとしても、それは他のパターンともつながっています。また、自分が選ぶ着地パターンのための学びが、他のパターンから得られることも多々あります。

自分には関係ないと見切りをつけてしまうのは、実にもったいないことなのです。

さてみなさんは、M&Aに対してどんな印象をお持ちでしょうか。

昔はエリートビジネスマンや金融関係者だけが使う言葉だったのでしょうが、今となっては、地方のオッチャン(失礼!)までが語ります。

「そんなときはM&Aをすればいいんだぜ!」なんて。

M&Aの認知度は上がったとして、問題は本当に「会社って売れるのか?」です。会社を着地させるときの選択肢になり得るのかです。

ヤメ大の学生さんが経営しているのは中小企業です。「大きな会社ならまだしもうちみたいな小ぶりの会社では・・」と思われるかもしれません。
しかし実際のところ、売れています。

私のところでは、社長と会社の着地について検討をはじめ、M&Aに方針が定まった場合、9割以上成約までこぎつけています。

しかも、私がかかわるような案件は、通常では「売りにくい会社」とされるところが大半です。規模が小さかったり、そんなに利益が出ていなかったり、立地が悪かったり……。それでも結果を出せている理由は後でお話しますが、まずは、会社を売って終えるという選択肢は「あり!」とご認識ください。

目次

会社ってどうやって値段をつけるの?

M&Aをするに際し、会社の値段ってどうやって決めるのか気になりませんか。

原則論として、あくまで自由取引なので、社長が欲しい金額をつければいいという話です。こちらが提示した金額に対して、相手も「その値段でいいですよ」となれば、取引成立です。

ただやっぱり値付けのセオリーはあります。

「純資産額+営業利益の3年分」

このあたりが、一般的な計算式ではないでしょうか。
式を分解して見てみましょう。
まず、純資産額。バランスシートの資産から負債を引いた金額です。モノとしての会社の価値と表現してもいいでしょう(このあたりは廃業論のところでもお話しています)。

ただし、会社の値段を導き出すにおいて、モノとしての価値を計測しただけでは不十分です。

会社は利益を生み出す装置であり、将来にわたりお金を稼ぎだすという機能があるためです。たとえば、会社は人材を募集し、採用し、利益を生み出せる戦力として育てます。会社を買うということは、このようなところまで含めて引き継いでもらえるということです。

このあたりの価値まで加えてもらえなければフェアではありません。モノとしての価値に対し、利益を稼ぐ「機会としての価値」とでも言いましょうか。

そこで実務では、純資産(=モノとしての価値)に加えて、会社が稼ぎ出す営業利益(=機会としての価値)も売値に反映させるのが一般的です。

具体的には、過去3年くらいの営業利益の平均を計算し、その数年分を純資産に上乗せさせます。

すると「営業利益の何年分を上乗せするのか」が論点となります。

既述の数式の「3年分」というのはあくまで平均です。安定していて、将来もずっと営業利益を稼ぎ出すことが見込めそうな会社ならば5年以上にすることもあります。逆に浮き沈みが激しい業種だと1年や0年分にする場合も。

この理屈にあてはめて、あなたの会社の価値を計算してみてはどうでしょうか。ざっくりとした計算で十分でしょう。

細かい話になりますが、純資産額や営業利益は、ともに実情に合わせた修正が行われます。

不動産が値上がりしていて含み益があるなら、その分純資産額を増やします。M&A後は社長が退任することで役員報酬の経費が減るのであれば、営業利益の修正も行います。

いくらだったらOKするかを決めておくこと

売り出す際のテクニックとして「ちょっと金額を高めにしておく」なんてことはM&Aでもよくやります。「普通に会社の価値を計算したら3千万円くらいだけど、とりあえず高めの4千万円から売り出してみよう。こんなケースです。不動産売買と似ていますね。
これはこれでOKです。

しかし事前に、売主であるあなたは「いくらだったら即決するのか」の数字は明確にしておくべきでしょう。

なんとなく売り始めて「実際いくらでOKするかは後で決める」みたいな姿勢はNGです。とくに明確な金額イメージもないのに「いい話が来たときは売る」というのもNGです。

いずれもチャンスを逃してしまう恐れがあります。


自分の判断基準をたしかにしておくことがポイントです。
かつて、売り始める前は「5千万円だったら会社を売ろう」と言っていた社長がいました。

私はすぐに買い手を見つけることができました。私が上手くやったという面も否定しませんが、それ以上に、本当に運が良かったのです。

順調な展開に胸をなでおろしました。

ところが、です。

すぐに買い手が現れたことで社長は「だったらもっと高く売れるはず」と考えはじめたのです。そして調子に乗って「前言撤回。やっぱり6千万円にする!」と言い出しました。

もちろん私は異議を述べました。こんなのは相手の足元を見てからの後出しじゃんけんです。

でも社長は値上げをあきらめません。やむを得ず、買い手候補にその意向を伝えたら、激怒。「売り手が信用ならないのでこの取引はおしまいだ」と拒絶されてしまいました。

これを機に私も契約を解除しました。このようなタイプの人とは付き合いたくありません。

正直なところ、もったいないと、後ろ髪を引かれる気もしました。M&Aでは、案件の集客も会社を売り始めるまでの事前準備も大変です(一方で得られる報酬は大きくなります)。そういった苦労をみすみす放棄するのですから。しかし、自分が付き合いたくない人からの仕事を我慢して続けるほうが、長い目で見た場合は損になる、と私はこれまでの経験で確信していました。

で、この社長ですが、会社を売ることはできなかった様子です。その数年後に廃業したという話を耳にしました。

自分の基準を持っていない人は、結果的に自分の評価を落とすことになります。また、チャンスをものにできず、流れを悪くしてしまいます。流れって、目には見えませんが本当に重要だと思います。M&A交渉に限ったことではなく、人生全体でもそうでしょう。

「一番高い金額で売りたい」「少しでも高く売りたい」と思うのは当然のことでしょう。

しかし、それはできません。というか、わからないのです。

目の前に現れた話が一番おいしい話なのか。この話を見送った方が、後でもっと良い話と出会えるのか……。未来が見えない私たちにはわかりません。

もし、どの話が一番おいしいものだったかわかるときがあるとすれば、それはすべての申し出を断った後だけです。振り返ってみて「あのときの、あの話が一番よかったんだなぁ……」と。

このときはチャンスを逃して後悔しているときでもあります。「あのときOKしておけばよかった」と。みじめです。

最高の値段で売ることにより「自分が納得できるオファーが来たら気持ちよく売る」というスタンスのほうが断然オススメです。こちらのほうがいい結果になりやすいでしょう。

そのために、自分は納得できる条件をあらかじめ明確にしておく必要があります。

金額が頭にこびりつく!?

ただし、いくら自分が納得できる金額といっても、相場や相手方があることなので、あまりに高値を夢見ては意味がありません。

純資産3千万円。ここ数年、毎年1千万円近くの赤字を出している会社がありました。あなたは、先ほどの金額の会社の価値算定の公式からすれば、いくらが妥当だと思いますか。

「まあ3千万円で売れれば御の字。続ければ続けるほど純資産は目減りするのだから、2千万円でも即OKしたほうがいいくらい」

私の目線はこんなところでした。

ところが、その会社の顧問税理士が「まず1億円で売り出しましょう!」とぬかしたのです。

直近は業績が上昇しているし(といってもまだ赤字!)、最初から低く出す必要ない、との理由でした。

ちょいちょい。そんなこと言ったって会社は今も赤字を垂れ流しているわけです。時間的猶予なんてほとんどありません。流れが悪くなるので、現実とかけ離れた金額で売り出すことも避けたいところです。

しかし、1億円という金額を聞いてしまった社長の目は輝いてしまいました。もう現実が視界から消えさり、すっかり夢の世界の住人です。

最終的には考えを改めてもらうことができましたが、本当に骨を折りました。いい加減なことは言わないでほしいものです。

さらに昔話をもうひとつ。

ある特許を持っている社長が「5億円で会社が売れると、M&A会社から言われる」と鼻息が荒くなっていました。私には特許の価値がいまひとつよくわかりません。決算書を見る限りは「どう考えてもそこまでの売値がつくとは思えない」という感想を抱きました。
そして約5年後、その社長が再び相談を申し込んでくることがありました。

M&Aの話ではありません。なんと資金が尽きて会社がつぶれそうだという相談でした。

なんであのとき売らなかったのか、まっ先に聞きました。

「売り出してみたんだけど、満足いく値段で買ってくれるところが現れず、そのまま時間が……」

要は、現実を見ずに欲張ったため、機を逃してしまったのです。
一般的に、M&A会社の営業マンは、最初は「高い値段で売れる」と言う傾向があることでしょう。そう言った方が、売ることを決断してくれるし、ライバルではなく自社と契約してもらえると考えるためです。

もちろん営業マンだって本心では、その金額では売れないと思っているはずです。それゆえ「後で社長に、値下げさせればいい」という思惑です。

ところがこの社長のように、理想的な数字が一度にインプットされると、それが頭にこびりついてリセットできなくなることがあります。5億円という値段が頭にこびりついてしまった社長は、それ以下の金額でのオファーには首を縦に振ることができなくなりました。そして、売れる時期を逃してしまいました。


できるだけ会社を高く売りたいという気持ちは、わからないでもありません。

しかし、会社の値段は、最終的に市場(買い手たち)によって決められるものです。売り手の都合なんて知ったことではありません。

欲を出し過ぎては災いを招きます。

会社が売れる金額というものは、実は、売り出す前からすでに決められている。M&Aの案件に関わっていると、いつもこのように感じます。

「いくらで会社を売ろうか」なんて社長と話をしていると、あたかも自分たちが値段を決めているような感覚を持ちますが、それは錯覚なのでしょう。

あらかじめ売れる値段は決まっていて、私たちはその値段を知るために試行錯誤するのです。

「金額は決められているんだったら、あとは柔軟かつ謙虚に対応するだけだ」くらいのスタンスがちょうどいいのでしょう。鼻息を荒くしても、肩に力を入れても、値段が高くなるわけではないのですから。

M&Aも準備が9割

「未払になっている残業代がありますね」

M&Aの交渉がはじまると、買い手から会社の粗探しをされます。相手だってお金を出す以上、それは当然です。

売り手の社長は、様々な会社内の問題を指摘されて顔面蒼白になります。

でも、私たち専門家から見れば、問題にされそうなところの9割は予想することができるものです。であれば、事前に穴を埋めておくことだってできるはずです。

実際のところ、売り出してからでは問題の解決や修正が困難なケースも多々あります(結果、売り値が下がったり、最悪、M&A自体ができなくなったりします)。だから、売り出す前までに「売れる会社」を作っておくべきなのです。

ところがみなさん、行き当たりばったりです。

会社を売ることを想定して、前々から虎視眈々と準備をしていた社長なんてほとんどお会いしたことがありません。世の社長さんの、M&A、さらには会社の着地に向かう姿勢の改善を望みます。


会社を売るためには最低限、整備しておかないといけないポイントがあります。たとえば契約などの法律関係や、資産の名義、株主リストなどです。

M&Aを考えている会社で、賃貸借契約書を見せてもらったことがありました。

土地を借りて事業をしていたのですが、契約書の賃借人は会社ではなく「これ誰?」という人でした。

どうやら二代前の社長のお兄さんだそうです。会社に関係していなかった人だし、すでに今は亡くなっている人です。

ということは、会社は、土地を利用できる権限があることを、形式的に証明することができていません。地主と会社の間での契約書がないのですから。

このままだとM&A的にはアウトです。買い手は「そういうところ適当だと買えません」という反応を示します。

M&Aでは、こんな感じで要所を細かく買い手からチェックされます。

もちろんM&Aの話は差し置いても、契約書のアップデートくらいはやっておいてほしいところです。でも、できていない会社も少なくはありません。
「売れる会社」にしておくという意味合いでは、社長がいなくなっても会社が回るようにしておくことは重要なポイントになります。

M&A後に社長が会社からいなくなることで、仕事が来なくなることや、仕事がまわせなくなることが予見される場合、買い手は金を出してくれません。

中小企業の場合、社長と顧客の属人的なつながりで仕事が得られている会社や、社長の個人的なスキルで仕事をこなしている会社があります。社長だよりの運営になっているのであれば、その社長がいなくなることで、会社が苦境に立たされることは容易に想像がつきます。

当然、買い手だってそのあたりは察知します。


「ならば、M&Aの後も社長が会社に残ればいいんだろ?」という発想もあり得ます。

実際、M&Aで会社を売却しつつ、社長がそのまま会社に残るケースがあります。
M&A交渉における話の流れで「社長さん、是非会社に残って力を貸してくださいよ」なんて買い手から言われることがあります(案外リップサービスのときも多い)。逆に、株式は譲るけれど、自分がまだ社長に残ることを売却条件として提示することもあり得ます。M&Aをしても、社長がそのまま会社に残るという道もあるのです。

でも私は、社長が会社に残ることには反対です。

会社を売った社長が、そのまま会社に残ったとき、何らかのトラブルが起きることがよくあるからです。トラブルまで行かずとも、買い手と元社長の間の関係性が悪化することなんてザラです。

のちに買い手が前社長を「会社に貢献していない」と批判してきたり、「うちのやり方に従っていただけないと困ります」と前社長がつまらない思いをさせられたり。そもそも社長というのは自由に自分のやり方でやっていた人です。他社の管理下に上手く順応できないのが普通ではないでしょうか。
会社を売ったあとは、仕事の引継ぎ程度の関係性にとどめておくことをおすすめします。

M&Aの準備が大事という話から、ちょっと横道にそれてしまいました。

M&A前に、どんなところをチェックすべきかについて、手厚く話をする時間はヤメ大にはありません。必要な方は、書籍で学んだり、専門家の指導を受けるなりしてください。

あらためて「より高く売る」を考える

先の話は、ここを押さえておかないとそもそも売れないというタイプの話でした。ここでは、どうしたら高く売れるのか、を考えてみます。

もう一度、M&Aの価格のセオリーを思い出していただけますか。会社の価格は、純資産と稼ぎ出す利益によって決まるということでしたね。そして、後者の利益をしっかり出せる会社になっておくことが、高く売るためのポイントになってくるわけです。

稼げる会社であることを数字で証明しておけ、という意味合いです。

この点、社長がアピールするポイントがずれていると感じる場面がよくあります。

「うちの会社は社歴が長いから」「知名度があるから」「いいお客さんがついているから」と。

意味がないとは言いませんが、これって買い手からしたら眉唾なんですよね。社長による自己評価には信ぴょう性がありません。

もしそのアピールポイントに本当に価値があるのだったら、それは利益という形で数字に現れているはずです。その分稼げていなければおかしいのです。

M&Aで高く売りたいならば、その前から利益率の向上にこだわり、数字として証明できるようにしておいてください。

みなさん、会社を売り出してから「もっと高く売りたい」と言い出します。しかし、会社を売り出す前の時点で、勝負はほとんどついてしまっています。試験当日になってから「いい点が取りたい」と言いだしてもどうにもならないのと同じです。しっかり勉強して、学力を高めてから試験に臨むことが必要なのです。

たとえばこんな感じで数字づくりをしてはどうでしょうか。

M&Aでは買い手に3期分の決算書を提出するのが通常です。会社が稼ぎ出す利益は、過去3年の平均を目安にします。

そこで、M&Aで会社を売ろうと考えているときの4年前に、社内の整理を思い切って断行します。思い切って不良資産や不採算事業を切り捨てます。その年は赤字になっても構いません。

膿を出し切ったら、それ以降、毎年きっちり利益を出してください(利益が出る体質になっているはず)。もちろん「税金を減らしたい」なんて、経費をわざと増やして利益を減らすようなことをするときではありません。
狙い通りにことが運べば、会社の稼ぐ力をより評価してもらえるようになり、結果、会社の売値も上がります。

「会社の利益を増やすために、自分の役員報酬も下げたほうがいいのか?」

こんな疑問を持った方がいらっしゃるかもしれません。この点について、答えはNOです。社長の将来の退職金を減らさないためにも、むしろ役員報酬は下げないでいただきたいです。
利益については「M&Aの後はこうなる」という理屈が通れば大丈夫だからです。

たとえば「M&A後は社長がいなくなり、役員報酬が減るため、年間利益はさらに2千万円増えます」と説明できれば、それでOKです。

事前準備の論点として設備投資の話にも触れておきましょう。

M&Aで買い手から「売り手の会社の設備が老朽化しているから、買ったあとにかなり投資しないといけなくなる」なんて、ネガティブなコメントを聞かされることがよくあります。

設備投資資金の必要性は、M&Aでの会社の値段を引き下げる方向に作用します。

であれば、売り手は、設備投資をしてからM&Aをした方がいいのでしょうか。

NOだと考えます。

設備投資をすれば当然お金は減ります。では、お金を使った分に比例して、買い手が設備の価値を高く評価するようになるかといえば、そんなことはないからです。

私でしたらM&Aをする直前に大きな設備投資はいたしません。設備投資は、長い時間をかけて利用することでようやく元が取れるものだからです。

「誰に会社を売らせるか?」はすごく重要

M&Aに臨むまでにやっておいたほうがいいことをお話しました。つづいていよいよ会社を売却する段階に話は進みます。

繰り返しになりますが、ここまでくると社長ができることはわずかです。その中で一番重要なものは「誰に会社を売ってもらうか?」の選択になります。
理屈の上では、自分で買い手を見つけて、自分で交渉するというやり方も成り立ちます。M&Aポータルサイトも普及してきたので、買い手候補を見つけることくらいはできるかもしれません。でも、その先の交渉や監査、条件の調整等までを素人である当事者だけでこなすのは現実的ではありません。やはり専門業者を利用することになるのが普通でしょう。

となると、専門家や専門業者を頼ることになるのですが、相手選びはみなさんが思っているより重要なポイントになります。誰に会社売却の相談をするか。誰に依頼するか。ここのミスマッチは避けなければいけません。

先にコツをお伝えすると、できるだけ人で選ぶべき、です。

有名な会社かどうか、規模が大きいか否かより、人です。M&Aの成否は、担当する人間次第です。担当者のスキルや熱量、人間性だったりします。

では、各プレーヤーの特徴を見てみましょう。

《顧問税理士や弁護士は?》

顧問の税理士や弁護士などは、近い存在で相談しやすい相手かもしれません。しかし、近いからこそ思惑が交錯してややこしいことになることだってあります。

その先生たちは、会社の着地やM&Aに詳しいのでしょうか。資格という形式面ではなく、定性的な面も確認してください。私たちは資格を過大評価しがちです。専門家と呼ばれる人間でもすべての分野に強いなんてことはありえません。

このあたりのチェックポイントをクリアしているのならば、相談相手にすることはおすすめです。

余談になりますが「とりあえず情報をたくさん集めたほうがいい」という発想で、様々な専門家へ相談を持ち掛ける人がいます。この姿勢に私は反対します。情報がたくさん集まったからといって、良い判断ができるわけではなかったりします。

それよりも「この人の言うことならしっかり聞くべきだ」と思える人を見つけ出し、相談を持ち掛けるほうが賢い方法だと思います。

《銀行は?》

銀行もM&Aの依頼先の候補になります。

M&Aに手を出す金融機関が増えました。本来の業務だと言える融資の稼ぎが減り、M&Aの手数料を狙うようになったのでしょう。

私の個人的な感覚は、銀行にM&Aを任せることには否定的です。

まず専業でやっているところと比べて、特別優れたところが見つかりません。

それどころか、買い手探しを自社の顧客に限定する縛りがあったり、何かとM&Aを自行の融資の話を結び付けようとしたり……。風通しがよくないと感じます。

社長のリスク管理としてどうなのか、という懸念もあります。

M&Aをするためには、仲介業者やアドバイザーに情報をすべてオープンにしなければいけません。債権者たる銀行はその相手としてふさわしいでしょうか。否。銀行は、何かあれば敵対することになる関係だということを忘れてはいけません。

「さかんに銀行が、私のところに『M&Aをしませんか』って営業してくるけどさぁ、依頼するわけないじゃん。銀行の前でストリップ踊ってどうするのよ?(笑)」

かつて私にM&Aを依頼した社長はこう語りました。この反骨精神をもった感覚が好きだし、正しいと思います。銀行というだけで絶対視してしまう人がいらっしゃるようですが、この社長の爪の垢でも煎じて飲ませてあげたいですね(笑)

《公的窓口は?》

最近は公的なポジションの事業承継やM&A相談窓口が増えました。

費用が安かったり、無料だったりする点はメリットです。でもM&Aということの重大さを考えたら、小銭を惜しんでる場合ではありませんね。

公的というだけですごく信用する方が多いのも事実です。私のような在野の人間からすると不思議に思わずにいられません。中途半端、リスクを負わない、動きが遅い……と、どうしてもよろしくないイメージが先行するのが正直なところです。

「売らせる相手は人で選ぶ」という方針を考えたとき、引っかかるものがあります。公的な相談窓口が、案件をただ他の業者などに振るだけの機能になっている場合もよくあります。しかも、その振った先も適任ではない場合も。

また公的な立場ゆえ、当たり障りのない話に終始し、リスクを伴う案件から逃げる場合も多々あります。そのおかげで時間や手間を無駄にさせられたり、と。

かつて、会社を買おうとした知人の社長が、某センターによって引き合わされた売り手とトラブルになったことがあります。

金を先に払ったものの、実はもう「会社としての実態が存在していない」という詐欺のような案件でした。このとき某センターは「はやく取引を成立させましょう」「信用できる相手だから大丈夫」「契約書は後で作成すればいい」と、かなり強引に話を進めさせました。

それがトラブルになったとたんに態度は急変しました。「ウチはアドバイザーじゃないから一切責任は負えない」と。自分たちの責任を棚上げし、さっさと逃亡したケースがありました。それまで散々口ではいいことを言っていて、何か起きたらこれです。

社長にとってM&Aは人生をかけて取り組む一大イベントです。自分たちだけはリスクを負わず、安全なところにいようとする相手に大切なものを託しますか。

《M&A専門業者は?》

最後はM&A専門業者です。小さいところから大きいところ、業種特化をしているところがあります。

また仲介形式(売り手と買り手の間に立つ)かアドバイザー形式(どちらか一方の利益のために動く)で、立ち位置を分けているところもあります。

この機に、仲介形式の可否について触れさせてくだい。

売り手と買い手の間に立つ仲介には「利益相反になる」と否定的な意見が付きまといます。たしかに、仲介が売り手に有利なように話をすすめれば、買い手にとってそれは不利な結果になることを意味します。

では、売り手と買い手がそれぞれ自分のエージェントを立てるアドバイザー形式ならばうまくいくのか。

理想論でしかないと感じてしまう場面がけっこうありました。性質上、売り手と買い手の対立構造につながりやすいため、重箱の隅をつつくような不毛な展開になることがありました。

また、買い手が売り手の会社のことを知りたくても、よく感じ取れないということ起きがちです。質問に対する回答が、売り手社長→売り手アドバイザー→買い手アドバイザーと経由されてから、ようやく買い手に届きます。伝言ゲームになるので、その間に情報がズレたり冷えたりしてしまうのです。
こういう実態を見ていると、問題はあるけれど、小さな会社においては仲介形式のほうがマシなのではないか、と私は感じています。
M&Aにおいて「公正な結論がある」という発想がそもそも幻なのです。そんなものははなからなく、売り手と買い手がお互いに妥協し合ってどうにか話をまとめるというのが、M&Aの実質なのでしょう。であれば複数の人間が間に入るよりも、一人の人間が話をまとめるために両者の間で汗をかくほうがずっと成果が出やすくなります。

M&A業者選びに話を戻します。

「大きい会社だからよい。有名な会社だから安心」という考え方はしないほうがいいということは、もうお分かりでしょう。やっぱり人です。あなたが信頼できそうな人間が担当になるかに注目してみてください。
また、大手になればなるほど、あなたの案件が、社内的にどうでもいい扱いにされる恐れがあるかもしれません。

もちろんM&A業者は「どんな案件でも等しく全力でがんばります!」と言うでしょう。

でも、できるだけ売り上げを稼ぎたいし、それも効率よく稼ぎたいのが業者の本音です。

そのためにどうするか。まずたくさんの案件を集めます。そして集めた案件から、売りやすいもの、売れたら自社がたくさん稼げるものを優先して売ります。

それこそ、関係をもった案件のうち、一部でも売れればそれだけで十分な利益が出る仕組みになっていることでしょう。会社のすべてを売る必要はないのです。

果たしてあなたの会社は、M&A業者が力を入れて売る案件になれるでしょうか。会社売却の依頼を受けておきながら、とても真剣に売ろうとしているようには思えないケースは散見されます。
最後に、大手のM&A業者ほど手数料が高くなる(たとえば最低でも1千万円とか2千万円とか)傾向があります。売値が低額になりがちな小さい会社の場合では、費用対効果のミスマッチが感じられることもあります。

あなたは何のために会社を売るのか?

「1億円くらいで買ってもらえるのだったら、会社を売るんだけどな……」

かつて私に相談を持ち掛けてきたある社長は、こんなことをつぶやきました。

この姿勢を結構強めに批判させていただきました。

社長の年齢は70歳を過ぎていました。体力や気力面の衰えを自分でも感じていて、社長のパフォーマンスの低下がここ数年続く売上げ減少にもつながっています。もちろんM&Aを考えているくらいなので後継者はいません。
ザっと会社の売値を計算したところ、売れたとしても、よくて3千万円くらいです。売り出したものの買ってもらえないでおわる可能性も感じていました。1億円なんて金額は夢物語でしかありません。宝くじが当たらないかなぁと同じレベルです。

ただ、私が厳しいことを言わせていただいたのは、希望金額が高すぎたからではありません。社長から「どうにか会社に決着をつけなければいけない」という切実さがまったく感じられなかった点に危機感を覚えたからです。

金額よりも、しっかりと会社の着地に決着をつけることがなにより優先されなければいけない状況なのです。それこそ、売れなかったときどうするかまで警戒しておいてしかるべしです。「1億円ならば……」なんてのんきなことを言っている場合じゃありません。

みなさんもあらためて、考えてみてください。

M&Aの目的ってなんでしょうか。単に会社を高く売ることではないはずです。

あくまで社長が、会社の着地問題に決着をつけること、そして、自分が社長をやめて、次の人生に進むことではないでしょうか。M&Aは、その方法の一つでしかありません。
金に目が行って、本質を外したり、本当に大切にしなければいけないものを見落としたりしてはいけません。会社が高く売れたのはいいものの、その後、やりがいもなにもない人生を送って不貞腐れていた社長を私は知っています。

売ることが目的になってはいけないのです。自分の人生、生き方を中心に物事を考え、決断していきましょう。

こういった面で「会社の売り時」も、やっぱり社長が、自分の人生からタイミングをはかるべきだと考えます。巷の本などでは、高く売れる時期を見計らって売ることを推奨しています。

はたして、社長自身はまだ社長を続けたいと思っている時期でも「高く売れる時期だから」で会社を売るべきなのでしょうか。そうは思えません。社長には自分の人生を見つめながら、売るタイミングを決めていただくことをおすすめします。

「経営をやり切った、もう心残りは無い」

ちょっと高値で売れたけれど自分は不完全燃焼で終わるくらいなら、こう実感して社長をやめられるほうがよくありませんか。自分の人生を良いものにすることを、目的の中心に置くことをおすすめいたします。

さてこれで会社の着地の3タイプ(廃業、社内承継、M&A)をお話しました。そのなかで「自社はどこに行きそうか」「自分はどの着地へ進みたいか」を考えてみることを宿題にします。

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この記事を書いた人

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継・廃業コンサルタント

これまで関わった会社は1000社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられた神戸に住むコンサルタントです。

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