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AIに奪われない、社長のおくりびと流お仕事

今手掛けている案件では、関係者全員と一人ずつお会いしています。

相続まで視野に入れた事業承継コンサルティングのご依頼です。

親と、3人の子供さん、計4名が主要人物。

その一人一人とお会いしています。

 

「全員の意見を聞いているんだな」と、思われるかもしれません。

でも、それよりもっと深いレベルの取り組みを意識しています。

僕としては、その人を自分の中に取り込みたいのです。

インストールです。

そのために今回のお仕事に関係なさそうなことだってたくさん聞きます。

一人につき3時間ぐらいお話を聞いています。

4人とお会いすれば、12時間。

生い立ちから、趣味、関心事、他の人との関係性、将来展望・・・など。

ご本人の哲学や考え方、価値観など、とにかく自分の中に取り込もうとします。

 

もちろん仕事のための取り組みです。

過去の経験則から、そこまでした方が結局いい仕事ができると感じています。

 

僕の中にその人をインストールされれば、脳内でその人から意見や感想を聞くことができます。

ときに、関係者のみなさんを脳内会議室に入れて、議論してもらうことも。

「こんなプランを考えたのですが、どう思いますか?」と。

脳内会議室で話し合いが進んでいきます。

これは便利。

 

また、自分の中に相手を取り込んでいれば、踏んじゃいけない地雷だって避けられます。

インストールしているときに、「だからあの時のAさんの発言に、この人はあんな反応をしたんだ」なんて気づくケースもよくあります。

不平不満をお腹のなかに溜め込んでいるのがむしろ普通だったりします。

その人の過去や他者との関係性までまとめて取り込んでおくことで、知らず知らずに危機を回避できているはずです。

 

書いていると、自分がイタコやシャーマンのような気がしてきました。

いっそのことイタコになりたいとも思います。

 

このイタコ戦術、遡ればウェブマガジンの編集をやっているときからこっそりやっていました。

経営や事業承継について、社長さんにインタビューしていたのですが、相手が言ったことだけでは「もの足りない」と感じるときが結構あったのです。

ご本人にもっと踏み込んで語ってもらいたかったこと。

ファンや読者だったら、もっと聞きたいと感じるであろう言葉・・・

 

そんな不足感を繰り返し感じていたあるとき、僕が補足してしまいました。

インタビューした相手が僕に乗り移って語り出すようになったのです。

それを原稿に書きました。

本人そのものの語り口調で、さも本人が言いそうなことを。

インタビューは長い時間をかけて深く行っていたので、相手が憑依するようになったのだと思います。

 

ご本人に文面をチェックしてもらったときに「こんなこと言っていない」と指摘されたことは一度もありません。

それはきっと本人としても、言っていておかしくない言葉。

言うべき言葉だったのでしょう。

 

「メディアの姿勢としてそれはどうか」という批判があるかもしれません。

しかし、僕がやっていたメディアは客観的かつ中立公正なもの目指してはいませんでした。

事業承継の現場を伝える、ゆるく、小さなメディアだったということで許していただければ幸いです。

最終的にすべての記事は、ご本人の承諾をもらってから公開していましたしね。

 

 

こんなイタコ戦術を、コンサルティングやコーディネートの仕事でも使ってみるとよりスムーズになりました。

一見遠回りのようですが、相手を深く知ることは近道になっている気がします。

 

そして期待していなかった別の効果もありました。

じっくり話を聞く作業が、相手から僕への親近感の向上にもつながるようです。

「聞く」というアクションが相手の心を開かせることは、多くの会話術やコミュニケーション指南の本が指摘しているところです。

おかげで、専門家とクライアントという間柄より、人間同士のお付き合いをさせていただいていると感じる場面が増えました。

お客さんより、友人とか仲間に近い感覚です。

 

これがどのケースでも、どんな仕事にもマッチことでは、もちろんありません。

僕だって、このスタンスでやっていない案件もあります。

かつて司法書士をやっていたときには、一つの案件で、相談を20分以内で終わらせるようにしていました。

話が脱線する方には流れを遮り「こちらが聞いたことだけを答えてください」なんて要求することもありました。

とっても非人間な感じがするかもしれません。

しかし、次から次にやってくる相談をこなすには、そうしたほうがよかったと思っています。

たとえば、診察待ちの患者さんが溢れる病院で、医者が「ところで子供時代、あなたはどんなことに興味がありました?」なんてインタビューしはじめたら、いい迷惑ですよね。

当時は、グルグル相談を回せることを一番重視していました。

 

当時と今では、仕事上、扱っているものも違っています。

かつては法律や手続を扱い、正しいことを伝えるのが役割でした。

形式的なものが取り扱い対象だったのです。

必要な情報さえ入手すれば、答えはすぐに出せました。

 

しかし今は、経営や事業、さらには当事者感情など、ソフトなものが対象です。

その方の人生や幸せにコミットしていると言っても、言い過ぎではないかもしれません。

たとえば「廃業しようか、会社を続けようか悩んでいるんだけど・・・」のような課題です。

正しい答えはありません。

自分なりに問題を設定して前に進むしかないのです。

そのためにできるだけ多くの情報やヒントを取り込みたいと思っているのです。

 

お客さんとのコミュニケーションに、時間を長く割く。

 

どんな仕事でも、誰にでも有効だとは思いません。

ただ、この記事を読んでくれている方が

「今の仕事で満たされていない」

「お客さんとの関係性がいまいちしっくりこない」

と感じているなら、一度、相手の中まで深く入ってみてはいかがでしょうか。

僕はそうすることで変わりました。

 

最近は「AIに奪われる仕事、奪われない仕事」という話をよく聞きます。

この点でも、相手に深く踏み込むことが、普遍的な仕事につながるのではないかと思ったりもしています。

感情面でお客さんと強くつながることさえできれば、どうにかなるような気が・・・

別にAIと張り合うつもりはありませんけど。

 

以上、お客さんとの関係性に悩んだこともある僕なりのお話でした。

同じような悩みを抱える方のお役に立てばうれしいです。

 

 

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この記事を書いた人

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継デザイナー
これまで関わった会社は1000社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられた神戸に住むコンサルタントです。
最新著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?』
ゴールを見すえる社長のための会【着地戦略会】主宰

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