役員借入を処理して廃業
50代の女性から『廃業』について相談がありました。
女性は、社長の娘さんです。
神奈川県横浜市の会社で、父母が卸業を長らく営んできました。
しかし、1年前に母親が死亡します。
母は会社の経理を一人で担っていました。
社長である父親は80歳に差し掛かり、健康面での不安があります。
奥さんが亡くなってしまったことで、仕事を続ける気力もなくなってしまいました。
そのような状況で「もう廃業しよう」と家族会議で決まり、娘さんに会社の処分が委ねられたといういきさつです。
役員借入が1億円!
会社はこのところ赤字続きです。
しかし、銀行からの借金はありません。
社長たる父が、会社にお金を貸すことで運転資金の穴埋めをしていたためです。
会社からすると社長からの『役員借入』です。
なんとその金額は1億円以上積みあがっていました。
会社にお金が無くて、社長が自分の役員報酬を取れない時に、役員借入として計上されてきました。
また、実際に個人のお金を会社に貸したときもあります。
「いつか回収できれば」と思って、役員借入に計上していたのでしょう。
経営上の収支を考えれば、こんなに役員借入を膨らませる前に、会社をたたんでおくべきだったのでしょう。
しかし会社というものには、人の想いや歴史が蓄積されるため、単純に損得勘定では考えられないケースがあります。
このケースもそうです。
婿養子として迎えられた父親には「なにがあっても自分の代で会社を終わらせてはいけない」という感情が強くあった様子です。
仕事をしても利益は出せないなか、夫婦の個人的な資産を投入して、無理に傾斜の命をつないできた面がありました。
自主的な廃業から清算手続へ
「どうやって会社を廃業させたらいいでしょうか?」という、娘さんからの相談です。
娘さんはこの会社で働いたことがなく、他の会社の従業員をしています。
動けない父親を見かねて、会社の廃業の協力をしてあげることになったようです。
娘さんは経営や会社の法律的なことは知らず、他の仕事もあるため動ける時間もそんなにありません。
そこで、奥村ができるだけ主体的に動いて、会社を閉じるお手伝いをすることを引き受けました。
役員借入の処理を急ぐ
会社のたたみ方としては裁判所を使った破産や特別清算と、任意での清算があります。
今回はコストや時間面から、裁判所を関与させない清算を選びました。
気になるのは、会社が負っている父親からの役員借入金です。
会社の財務状況は債務超過。
資産よりも負債の方がはるかに大きくなっています。
資産はほとんどありません。
ゆえに、実質的には回収できない貸付です。
しかし、形式上、社長は1億円の債権を持っていることになります。
もし会社をたたむ前に社長に相続が起きてしまったら、その貸付も相続財産に含まれます。
相続税の対象となる相続財産増えることになるので、その分相続税も増えることを意味します。
まったくもって、無駄な税金です。
相続が起きる前に役員借入を早く処理してしまわないといけません。
しかし、会社の清算には官報公告の期間などが必要なため、どんなに急いでの数カ月はかかります。
また、下手に社長が債権放棄すれば、その行為に対して課税がなされることもあり得ます。
清算を結了し、廃業を実現
仕事を受任してから、すぐに会社解散の登記をしました。
また取引先などへは廃業の案内文を作成し、経緯と今後の流れを説明しました。
在庫は関係者に買い取ってもらうことで、社長の役員借入への返済に充てることができました。
それでも、役員借入はほとんど残っています。
この返済しきれない役員借入については、顧問税理士と相談しながら債権放棄の処理をしました。
繰越欠損金と相殺させることで、今回は課税なしで社長は債権放棄ができるとのことです。
最後に、清算結了という登記と税務申告をして、一連の廃業手続は終了です。
どうにか父親の相続発生前に会社をたたむことができました。
この手の仕事の場合、解約や資産処分などの事務手続きが大量となります。
また、フタを開けてみないと気付かない細かい論点が出てくるので、その場で対応を考えなければなりません。
重荷だった会社の整理が無事に終わり、娘さんは次のステップに進むことができました。
これからは父親の介護のやり方と、その費用を賄うための不動産活用について考えはじめていらっしゃいます。
※廃業のご相談※
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神戸や大阪、東京を中心とした関東で主に活動していますが、相談は日本全国に対応しています。