金の切れ目が縁の切れ目とも言いますが、これまで一緒に会社をやってきた相手と別れたいという相談を寄せられることがあります。
共同経営をしていた友人どおし、父親と子供、兄弟・・・
支援のモデルケースとしてある事例をご紹介いたします。
分社で突破口を作る
「会社を分けられないか?」と、ある会社の専務から相談がありました。
創業25年。
2代目となる長男が社長、次男が専務を務めています。
当初は足並みがそろっていたものの、近年になり社長と専務の関係がこじれているようでした。
双方の経営に対するビジョンが大きく異なるためです。
旧来のスタイルで資産等の所有にこだわる社長と、資産を持たずソフトで稼ごうと考える専務です。
また、専務は経営者としての兄のやり方にも不満があるようでした。
二人の間では何度もバトルが展開され、専務から「社長を自分に変わってくれ」と申し出をしたこともあるそうです。
そして、それぞれが別の会社をやるのがいいと考え、私のところに相談に来られました。
仕事を引き受ける条件
「私が間に入って話を進めることに、社長も同意してくれるならば仕事を引き受けます」
私の答えです。
専務だけでなく、兄の社長からも私が間に入ることを求められれば、私はこの仕事ができます。
逆に、「奥村を間に入れるつもりはない」「分社を検討するなんて言語道断」と拒絶されるようならば仕事はできません。
対立構造になってしまったら、そのときは弁護士なりの出番でしょう。
「会社を分ける」という結論になるかはまだ分かりません。
しかし、そこまで視野に入れて、兄弟が会社の今後を検討すること。
そして、そのコーディネートを奥村に委ねること。
この点に対する、兄弟それぞれからのコミットを私は求めました。
専務におぜん立てをしてもらい、単身で社長に会いに行きました。
結果的には、社長である兄からも、「この状況が続くことは良くないと思うから、間に入って欲しい」と回答をいただきました。
まずは「聞くこと」から
まずは社長と専務、それぞれと深くコミュニケーションを取りました。
何度も個別で対話の場を持たせてもらいました。
目的はこれまでの経緯を知ることと、その「人」を知るためです。
問題が、法律やお金のテーマに見えても、結局、根っこは人間感情の話です。
何が許せなくて、どうなれば納得できるのか。
その人の持つ価値観のものさしを把握できていないと、打ち手を誤りかねません。
対話をすること。
そして、しっかり話を聞くこと。
コンサルタントや専門家が軽視する傾向にあります。
しかし、良いゴールに話を進めるためには、専門知識などよりずっと重要なことだと感じています。
双方が「会社を分けるのが良いだろう」という結論に達しました。
比較的スムーズに話が進み、今後もこの方針がブレなかったことは、私のコーチングスキルによるところも大きかったはずです。
会社分割による切り分け
会社を分けることが決まったので、次は、どのように分けるかのコーディネートに進みました。
会社の状況どのようになっていて、それをどう分けるのが適切なのかを考えます。
たとえば、個々のお客さんや従業員は兄弟のどちらと関係が深いか。
また、資産や負債の分け方(貸借対照表)と、売上や経費の案分(損益計算書)も検討しなければいけません。
兄弟それぞれの要望もあります。
このケースでは、弟さんより「兄の下にいるスタッフだけど、自分の会社のほうに欲しい」なんてリクエストもありました。
このような感じで様々な観点をふまえて分割案のたたき台を作り、さらなる調整をしていきます。
不公平が生じたらどのように調整するか、という課題もあります。
また、兄弟のどちらが旧会社に残り、どちらが新会社を設立するのかという論点もあります。
そして、分社を実現するには、どんな手法(事業譲渡や、会社分割など)がいいのか。
考えなければいけないことは山のようにあります。
自分を自分で褒めるのはいやらしいものですが、このあたりのコーディネートを手掛けられる専門家というのは、そういないはずです。
会社の分け方が決まった後の手続きならば、できる人はたくさんいます。
しかし、いかに分社させるかは難しく、そして、そここそが肝だったりします。
本件では、会社分割という手法を使い、子会社を設立。
その会社を、弟さんが退職金で買い取るスキームを企画しました。
不当な税金を課されないよう、途中から税理士も交えて問題を検討しています。
顧問税理士さんはいましたが、会社分割の経験はないということで、今回は私の知り合いの別の先生にもオブザーバーとして参画してもらいました。
話し合いのガイドラインとスケジュール
私が行った「話し合いのルール設定」や「対外的な対応の仕方へのガイドラインづくり」は、重要なポイントになったはずです。
たとえば「分社に関するやり取りはすべて奥村を通じて行うこと」などを、話し合いのルールとして設定しました。
当事者で直接やりとりすると感情的になりかねません。
また、いつ誰に言うか。
どんな言い方をするか。
このあたりの詰めもコーディネートしました。
たとえば、銀行にはどういう風に伝えれば、理解を得られるのか。
否定されたときはどうするのか。
従業員にはどうか。
どのタイミングで、どのように話をするか。
ガイドラインとスケジュールも作りました。
会社の価値を損なわないために
計画が整い、社長と専務の間で合意がなされたので、あとは実行あるのみです。
社長とともに銀行を訪ねて今回の会社分割についえ説明し、理解を得ました。
また、従業員を集めて今後の会社の方針や待遇についてミーティングを開催しました。
登記の申請や税務、労務の手続などをも行い、無事に会社を切り分ける作業が終了しました。
この手の話で常に意思しておくべきは、会社の価値を棄損しないことです。
話し合いが紛糾すれば、会社分割が成功しないだけでなく、深い傷跡を会社に残します。
周囲に上手な根回しができなければ、分社で新たな旅立ちを迎えたとしても、顧客等が付いてきてくれない場合だってあります。
下手な手を打ってマイナスを生むことなく、さらには今回の分社を新たなチャンスに変えられるよう、油断してはいけません。
会社分割で想いと会社のかたちを整える
兄と弟はそれぞれ、旧会社と新会社の社長として新たな旅立ちを迎えました。
本当に修復不能になってしまう前に、落としどころを見つけられてよかったと思います。
分社という手法を使うことで、当事者の想いに合わせて会社のかたちを整えることができました。
リセットと調整の手段としての会社分割の利用価値を改めて感じた一件でした。