売りたい事業をあらかじめ子会社に
都内のベンチャー企業の社長さんから声がかかりました。
若くエネルギッシュで、意欲的に経営をなさっている方です。
「事業部ごとに別会社化させて、各社の社長の責任と権限を明確にしたい」という意図でした。
いわゆるカンパニー制というものでしょう。
会社分割等を使った会社再編を得意としていたので、いつもどおり、そのメリットデメリット、やり方につき説明しました。
会社分割で子会社を作っておくメリット
「今後は新しい事業を作って育てては売却し、また新しい事業を開発するような展開をしていきたい」
ひととおりの話が終わったときに、社長はこんな将来ビジョンを語りました。
すでに売却対象とできるぐらいまで育てた事業も、今回の相談の事業とは別にあるとのこと。
そこで、会社分割でその事業を別会社にしてしまい、子会社として元の会社にぶら下げることを提案しました。
提案の目的は、事業をM&Aで売りやすくするためにあります。
まず、様々な事業が混在した会社は、買い手からすると買いにくいものです。
分かりにくいからです。
もちろん、会社ごと売らないで事業だけ売る方法(事業譲渡)もあります。
それでも買収する事業の中に何が含まれているのかは見えにくいもの。
一方、別会社しておけば、会社をそのまま売買するだけなので、取引は楽になります。
会社ごとに決算書があるというのも安心材料です。
「この会社を買いませんか?」と、決算書をそのまま見せることができるほど参考になる資料はありません。
分社内容を自由に設計
会社分割をするには、分割計画書などの書類を作り、株主総会の決議などを行います。
ありがたいこととして、新会社のために改めて資本金を積む必要がありません。
あくまで既存の会社を再編して分けるだけでという概念です。
逆に言えば、再度合併しても従前と同じ状況でなければ話がおかしくなってしまいます。
そして、何を元の会社に残し、何を新会社に持ち出すかも自由に設計できます。
資産も借金も、従業員も、です。
(ただし、従業員の場合は協議等の手続をふみます)
借金など、M&Aの際に扱いが面倒になるものは親会社に残し、純粋に事業に必要なものだけを子会社に持ち出す。
こうすることで、きわめて売りやすい会社を作ることができます。
私の話を聞いてその使い勝手の良さに気づいた社長は、すぐにその案の実行を決めてくださいました。
会社分割等の手法を使って、資産や負債を管理する会社を親会社とし、その下に各事業を行う3つの会社を作りました。
М&A成功!!
会社分割を実行してから1年あまり。
売却を想定していた子会社に対し、予想よりも良い条件での買収オファーが寄せられました。
社長は、この子会社の株式を売却することを決意。
売却交渉やその後の調査(デューデリジェンス)等は極めてにスムーズに進みました。
こちらは狙い通りです。
M&Aで手に入れた資金は新たなサービスの開発資金に回されます。
また、権利と責任を明確にするために作った別の法人でも化学変化が起きました。
経営を自分ごととして捉えられるようになった元従業員たちはやる気を出し、業績をかなり向上させたそうです。
そのうちの一社では、子会社の社長に就任した人間たちが「株式を買い取って完全に独立すること」を希望してきました。
社長もこの動きを歓迎し、株式の売却を快諾しました。
以前からスタッフの奮起と自立を望んでいた社長としては、理想的な展開でもあったのです。
小さな会社でも会社再編は役に立つ
会社分割等の会社再編の話は、概念的すぎて分かりにくい部分があります。
また、それを担える専門家が少なく、実行しようとすると多額のコストがかかるケースもあります。
それでも実は使い方次第でいろんな可能性を広げてくれます。
そして中小企業こそ、その恩恵を受けるべきだったりもします。
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