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本音で話せばいいってわけじゃない(事業継承)

「もう腹を割って話ましょう」

当事者どうしで、直接話をしてもらう機会をつくりました。

 

僕がコーディネートをしている大阪の事業継承の案件があります。

社長と後継者の間に血縁はありません。

数年前に社長が今の後継者の方を見つけ、スカウトしてきたのが事業継承のきっかけです。

 

会社を引き継ぐ条件や、いくらお金を支払うか。

今後の先代と会社の関係は・・・など、数カ月間に入って調整をしてきました。

しかしこのところ、決定したことが再びぶり返されたり、相手への不信感が生まれてしまっていました。

そこで「面と向かって本音で話をしましょう」となったのです。

 

本音を語り合う。

このことを良いことだと思う方は多いのではないでしょうか。

とにかく何でもかんでも「腹を割ろうぜ」の号令が好きな方もいらっしゃいます。

 

でもそうなのでしょうか。

本音を言わないで済めばそれでいいのではないでしょうか。

少なくとも交渉の世界ではそうです。

今日のような事業承継や株主間の関係解消、相続の遺産分割・・・

僕が仕事で関わる交渉の場面です。

ここで当事者が本音を強要されたら、感情論や水掛け論になってしまって収拾がつかなくなってしまうでしょう。

 

僕は不動産の大家もしていますが、物件を買うかどうかは、ほとんど数字でしか考えません。

これを「前所有者の本音はどうなんだ?」なんて言い出したら話をややこしくするだけです。

そんな人いませんね。

希望する利回りが確保できそうなら、それでいいのです。

巨人ファンの買い手が「阪神ファンからは買いたくない」なんて言ってたら、みすみすチャンスを失うだけです。

 

事業承継や相続だって、これとそんなに変わらないと思うのです。

 

さっさと落としどころを見つけて、合意で終わらせればいいはずです。

そのためには一言文句を言ってやりたい気持ちも押さえればいいのです。

ただ、人間は感情の生き物なので、これが難しい・・・

 

本音を言い合うことは、良いものでも悪いものでもありません。

話し合いを取りまとめる僕としては、あくまで目的を達するための手段のひとつでしかありません。

ただ、そのカードはできるだけ使いたくないのです。

本音で語り合えば、お互いが感情的に満たされていい結果になることもあれば、衝突して話し合いが決裂してしまうこともあります。

どちらに転ぶか分かりません。

だから腹を割るのは最終手段。

そうそう腹の中を見せ合うものではありません。

 

今回の案件で、本音を語り合う状態にまでしてしまったのは、僕のコントロールの失敗でもあるのです。

結果としては良い方に転んでくれましたが・・・

 

本音や感情を押し込めることで交渉が上手く着地するならそれでいいのです。

その場をやり過ごせればいいのですから。

感情的に満たされることが目的ではなく、ましてや相手をやっつけることでもありません。

淡々粛々と落としどころを探りましょう。

 

最後に「本音は封印しておこう」というのはあくあまで交渉の場面を想定しての話です。

恋愛や友情、夫婦関係などはまた別の話でしょう。

本音を言うのに気を遣う関係というのも窮屈です。

ただ、あまりに感情論が先走っているようなケースでは、ここに書いたことをちょっと思い出していただければいいのかもしれません。

本音を語るばかりが手ではない、と。

 

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この記事を書いた人

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継デザイナー
これまで関わった会社は1000社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられた神戸に住むコンサルタントです。
最新著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?』
ゴールを見すえる社長のための会【着地戦略会】主宰

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