中小企業の社長には定年がありません。
株主やメディアのように、経営者を批判してくる相手も普通はいません。
だから、良くも悪くも、長期にわたってその地位にいることができます。
長く社長として一線にいればいるほど、社長を辞めることができなくなるのも事実です。
父親が零細企業の社長をしていたという、ある経営学の教授は、父の晩年を傍らで眺めながら「街場の会社の社長というものは、辞めるに辞められなくなるもんだ」と痛感したと語りました。
経営環境の変化や、内部的な問題で、会社を手じまいすべき場合があります。
日本経済がかつての活力を失ってからは、そうすべきケースはより増えています。
過去の商売の仕組みが機能しなくなるのですから当然です。
そうなれば、新しい事業モデルを作り直すのか、撤退するしかありません。
しかし、前者は口で言うほど簡単ではないことはありません。
新事業は立ち上がらないケースのほうがずっと多いことでしょう。
となれば自主的な撤退というオプションを確保しておくことに大きな意味があります。
そう、退路なのです。
どんなにすごい社長であっても、不死身ではありません。
状況が社長を続けることを許してくれない時もあります。
いざというとき悪循環に陥る状況をリセットできるよう、社長には退路を確保しておいてもらいたいと願います。
「どうにかしなければ」と、会社の維持存続のために視野が狭くなり、苦し紛れに周囲を巻き込んで傷つけた社長を山のように見てきました。
こうなるともう再起なんてとても考えられません。
社会的に抹殺されてしまいます。
もちろん、自分も深く、深く傷つきます。
このような想いから、先日、社長の退路の開拓の方法についての講習会を名古屋で開催しました。
社長を辞めざるを得ないとき、会社をたたまなければいけないときに備えて、どんな手を打っておくといいか。
撤退の見極めをするポイントをどのように考えればいいか。
土壇場のときにやってはいけないNGはなにか。
これらのトピックスを伝えました。
「退路なんて考えて経営なんてできるか!」
参加者のお一人が、他の経営者の知人も講習会に誘ったところ、半ば怒られてしまったそうです。
第二次世界大戦のときの日本軍のようなメンタリティだと感じました。
でも、このタイプの方は実際にたくさんいるし、今でも主流なのかもしれません。
カラ元気だろうがなんだろうが、社長たるものいつも元気で前向きでなければならない。
都合の悪いこと、縁起が悪そうなことは見ないようにする。
やる気と根性だけあれば必ず勝つ、と。
価値観は人それぞでしょうが、社長の終末を見続けてきた私には賛成できないものです。
守り切り捨てて無理に前向きを装うより、退路があったほうが本当の意味で前向きになれるものだったりします。
退路が確保されていて、いざというときは撤退できることがわかっていたら気持ちが落ち着きます。
悪いほうを見ることが、本当の意味での前を向きをもたらしてくれるのです。
勉強会終了後の懇親会で、参加者の方々は口々に語りました。
「参加して、勇気が出た」
「気持ちが軽くなった」
「退路がテーマだから暗い話かと思ったけれど、こんな明るい気持ちになれるとは!」
参加者の声がこの法則の正しさを証明をしてくれています。
正直この企画は、私にとって重たいものがあります。
とにかく集客が厳しいのです。
普段の事業承継のコンサルティングの仕事よりも、もっと若い社長さんが主な対象となります。
この層には僕の発信力はまだまだ足りません。
そして、考え方の違いから、このコンテンツが毛嫌いされることも多い・・・
しかし、参加していただいた方々の反応を見たら、やっぱり続けなければいけないと感じました。
また気力が湧いてきたら、どこかで企画してみます。