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事業継承に家族信託が活用できるの?

目次

家族信託とは

最近注目度が上がっている『家族信託』です。

信託の中でも、投資信託などとは異なる、
家族への財産管理や承継の分野を指します。

家族信託を使えば、
従来の後見制度や遺言では解決できなかった問題をクリアしつつ、
財産の管理や承継の場面で
ご本人の希望を実現できる可能性があります。

信託のプレヤー

信託には、「委託者」と「受託者」、
そして「受益者」の3名が、主な人物として登場します。

これは家族の資産継承などを指す家族信託でも同じです。

委託者が、受託者にその所有していた財産を託し、
受託者が運用をします。

そこで得た利益が受託者から受益者に支払われるのです。

 

不動産賃貸業の例で考えてみましょう。

現所有者である夫は所有するアパートで賃貸業をしていましたが、
健康上の理由で継続が難しくなりました。

妻もいましたが経営を任せるには不安も多く、
リスクも負わせたくありません。

妻の生活費は必要ですが、妻が自分で稼ぐには荷が重たいのです。

そこで、アパート経営ができそうな者に信託でアパートを託します。

現所有者が委託者で、アパート経営を引き継ぐものが受託者です。

そして、受託者はアパート経営を行い、
得た利益をあらかじめ指定されている受益者(妻)にもたらします。

 

家族信託はどんな時に役立つのか

はたして家族信託は事業継承に役立つのでしょうか。

活躍しそうな場面を想定してみましょう。

次の次の社長まで指定したい

通常、今の社長さんが選べるのは次の社長までです。

拘束力を持てるのは、
遺言等で株式を次の社長に承継させるまでだからです。

株式を手にした次の社長が、
自分の後継者を誰にするのかは次の社長の自由です。

しかし、信託の仕組みを使えば、
次の次の社長まで指定することができます。

まだ若くて社長の役割を担うには心もとない子や孫を社長にする前に、
誰か信頼できる経営幹部などを一度社長に置くこともできます。

ワンポイントリリーフのような社長です。

 

議決権を残しつつ株価が安い時に贈与してしまう

財務内容が悪い時や利益が減っているときは、
株式を後継者に贈与するチャンスです。

このタイミングならば株価が低いため
贈与税対策が楽になるからです。

しかし、株式を後継者に渡してしまうと
議決権まで後継者に移転することになってしまいます。

「税金を抑えて株式を譲るのはいいけど、
会社を支配する議決権まではまだ渡したくない・・・」

こんな不満がある場合もあるでしょう。

こんな時にも信託を上手く使えば、
議決権は留保したまま株式を移転することができます。

なお、種類株式のうちの議決権制限株式を利用しても
同様のことは実現できます。

しかし、こちらの場合は株主総会の特別決議が必要になる等の理由で、
家族信託の方がやりやすいケースもあるはずでしょう。

 

相続で株式が分散したり、遺留分で揉めるのを防ぐ

税金や遺産分割の問題で、
自社株式を相続人の共有で相続させたいケースもあるでしょう。

しかし、それをやってしまうとその後の経営が不安定になったり、
株主間のトラブルを招きやすくなります。

ある一人にばかり財産を相続させると、
遺留分の問題も起きます。

信託はこんな苦しい場面も救ってくれるかもしれません。

 

例えば、長男、次男、三男が相続人で、
会社の後継者が長男の場合を想定しましょう。

信託の受託者を長男とし、
受益者を各相続人が3分の1ずつとします。

すると議決権を行使できるのは受託者である長男だけになる反面、
資産価値的な配分では3分の1ずつの共有となります。

ゆえに遺留分の問題は起きません。

あとは指定の時間内に長男が他者から受益権を買い取れば、
株式の整理も完了するのです。

 

残された配偶者や子の生活を守る

自分の亡きあとの配偶者や子の生活が心配な場合もあるでしょう。

たとえば亡夫がアパート経営をしていたものの、
遺された配偶者等にはそれを担うことが厳しい場合です。

大規模修繕などがあれば大きな借金も
背負わなけれなりなくなります。

そのようなときに信託で
アパート経営のノウハウを持つ者を委託者として、
経営を任せることもできます。

委託者はアパートを経営して利益を生み出し、
遺された配偶者等へ送金をして生活を支えます。

 

成年後見の穴を埋める

本人が認知症などで判断能力を失った場合のために、
日常生活を補完する「成年後見」という制度が用意されています。

たとえば本人が不動産を有してアパート経営をしていたら、
後見開始後は後見人がその維持管理ができるようになっています。

しかし、後見人の役目や権限は現状維持にとどまります。

仮に不動産業として美味しいチャンスが巡っていても、
本人の代わりに着手することはできません。

また、借金をすることもできないのです。

こんな無難さが求められる成年後見の制度では、
本人の代理としては不十分な機能しかできない場合があります。

アパート経営では、
大規模修繕の際などに借金をしなければ難しい場合があります。

こんなときどうしたらいいのでしょうか。

信託を使えば、こんな成年後見の不足面も補える可能性があります。

 

家族信託のデメリットと注意点

上記のように可能性を感じさせる家族信託ですが、
メリットだけではありません。

利用際には、そのデメリットも頭に入れて検討しておきましょう。

 

所有権が移転する

信託では所有権が委託者から受託者に移転します。

受託者が自由に処分できるようになるわけではありませんが、
不安に思われる方もいるはずです。

移転には不動産登記費用などもかかります。

ただし不動産取得税はかかりません。

 

自己都合に陥りやすい

この手のツールの利用を考えていると、
自分にとって都合よく物事を考えてしまいがちです。

物事は自己都合に陥ると失敗しやすくなります。

例えば、信託を使えば「次の次の社長まで指定できる」と
そのメリットがよくうたわれます。

しかし、ワンポイントで利用されることになる人は
それでは面白くないと思っているかもしれません。

相手の感情を見逃してはならないのです。

また、次の次の社長を指定したとして、
本当にその判断が適切なのかはわかりません。

先の未来を想像して出した結論でしょうが、
その時になってみなければ様子はわからないのです。

分からない将来の世界のことを、
過去の人間によって拘束されるのは不都合かもしれません。

 

複雑、分かりにくい

私が思う一番のデメリットはこれです。

概念ばかりの話で、信託はとても分かりにくいものです。

複雑でもあります。

「分かりにくいものはできるだけ避けること」を持論にしています。

分かりにくいものは、
関係者が理解しきれず機能しない恐れがあります。

何かあったときに自分で対応できません。

専門家を使うケースが多いのでしょうが、
難しいものを使うと、
その専門家に依存し続けなければならなくなる危険もあります。

難しいことをやりたがる専門家は一部にいるものです。

自己の腕を試したいだろうし、
難しい案件ほど自分の存在感が増します。

そんな専門家のペースに巻き込まれず、
冷静に考えていただきたいところです。

 

高額なコスト

信託を設計するために法律や会計の専門家を使うと
費用が高額になるケースがあります。

また業として受託者になるためには許可や登録が必要であり、
その者たちを利用するにも
かなりの費用が必要となる場合も多いでしょう。

現状は、遺言の場合と比べても、割高になりやすいところです。

 

→ 社長の相続対策・遺言作成支援

 

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この記事を書いた人

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継デザイナー
これまで関わった会社は1000社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられた神戸に住むコンサルタントです。
最新著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?』
ゴールを見すえる社長のための会【着地戦略会】主宰

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