社長が事業承継で”最初に決めるべきこと”はなにか?
さて、問題です。
社長が事業承継で”最初に決めるべきこと”はなんでしょうか?
これから会社を次世代に譲っていく取り組み(=事業承継)に向けて一歩を踏み出そうとしている場面です。
考えてみてください。
「次の後継者を誰にするか決めること!」
こう答えた方、結構多いのではないでしょうか。
でも、私の答えは違います。
もっとも算数の問題のように完全な回答があるわけではないので、私が100%合っているとは言えません。
しかし、これまで1000社以上の会社に対して事業承継や廃業、M&Aのためのコンサルティングをしてきた経験から導き出た結論なので、的はずれではない自信はあります。
私の答えは、「社長が、社長を辞める時を決める」です。
いつまで社長を続けるのか、です。
後継者がいるとかいないとか、ましてや、誰にするかなんて関係ありません。
とにかく、自分が社長でいる期限を決めてしまうのです。
後継者はコントロールできない
なぜなのか。
まず、後継者がいるか、いないのかなんて、こちらでコントロールすることはできないからです。
後継者が決まってから事業承継のことを進めていくというスタンスをとったら、どうなってしまうかわかりません。
待ったところで後継者が出現するか分からないし、社長が「次はこいつを社長にしたい」と思っていても相手はそう思わないかもしれないのです。
そんな不確かなものに未来を委ねるべきではありません。
よく「後継者候補はいるけれど、その者の経営能力にまだ信頼がおけないからまだ事業承継は見合わせよう」なんて話をよく聞きます。
では、いつまで猶予期間とするのでしょうか。
もしずっと後継者の経営能力に信頼がおけないんだったらどうするのでしょうか。
このあたりを中途半端に済ませてはダメなんです。
一方、社長を自分の意思で辞めるということは、確実に実行できます。
コントロールできることだから、あてにできるのです。
社長を永遠に続けることはできない
絶対的な事実として、社長は永遠に社長を続けることができません。
今は事業承継の問題を決められないけれど、状況を見ながら考えていくという保留的スタンスをとる場合だってあるかもしれません。
しかし、その期限は本来有限なのです。
社長をいつまでやるのか決めることは、その期限はいつまでなのかを決めておくことでもあります。
生涯現役社長という姿勢について
なお私は、早く社長を辞めろといっているのではありません。
それこそ「俺は生涯現役社長を貫くぞ」という社長の意向だって肯定しています。
ただし、それと何も手を打たないこととは意味が違います。
もし生涯現役が成就するとすれば、社長が社長を辞めるのは「自分が死亡したとき」です。
社長が亡くなっても会社は残ってしまうため、何らかの手を用意しておかなければ、状況は大混乱に陥ります。
また、生涯現役を掲げたところで、やっぱりかなわない可能性だってあるのです。
業績の悪化によって会社を維持できなくなったり、社長本人の病気や怪我の場合だってあり得ます。
やはり、このような状況が変わることまで想定した準備が必要です。
生涯現役は、何も手を打たなくていいということではありません。
むしろ、自ら辞める場合よりもうまくやることは難しく、より周到な準備が必要となるのです。
準備をしない理由にしてはいけません。
あらためてまとめると、事業承継に着手するに際し、まず自分がいつまで社長でいるのか決めましょう、というのが私からの提案です。
むしろ、事業承継の問題関係なしに、ある程度の年齢になったら、社長はいつもおわり方のイメージをもっておいたほうがきっといいのでしょう。
社長をやめる時を先に決めるメリット
社長を辞める時を先に決めてしまうメリットはどこにあるのでしょうか。
「会社をどうするか?」の戦略が立てられる
まず、期限が決まれば、それに合わせた戦略を立てられるようになることです。
たとえば後継者がいない会社で、社長は60歳だったとします。
そして「65歳のときに社長を辞める」と、社長は決めたとします。
すると、こんな風に戦略を立てることができたりします。
「あと3年は後継者探しと育成に尽力する。
それでも、こいつだったら大丈夫だと思える人材がいなかったら、それから2年間M&Aで他社への売却を試みる。
もし売れなかったときは、最後は会社を廃業させてきっちり整理する……」
期限を決めることで、積極的に道を拓くための手を打つことがでるのではないでしょうか。
「後継者もいないから、とりあえずこのまま続けてみよう」という成り行き任せのスタンスと比較したら大きな差があります。
成り行き任せでは、後手を踏みます。
そして、後手を踏むことが、事業承継の問題において一番深刻で、そして最も多い失敗ケースです。
時間が経過するごとに有効な選択肢を失うものだからです。
一方で、期限が決められていれば、それまでにできることをしようという発想になります。
そこから積極的な戦略が生まれるというメリットがあります。
誤解されているけど、廃業は悪じゃない
少々蛇足ならがら、「廃業」についても少々コメントさせてください。
後継者がいなくて、M&Aもできなければ、最終的に廃業という道をたどるケースがほとんどでしょう。
この廃業、世間では悪く言われていますが、決してそんなことはありません。
会社を散らかすだけ散らかして、後始末をしないケース。
さらには、たくさんの人を巻き込むだけ巻き込んで倒産するケース。
これらのケースと比べれば、きっちりピリオドを打ち、状況を整理するだけずっと良い終わり方なのです。
社長としての責任を果たしたと評価してあげるべきものでしょう。
中途半端に放置されているような会社がものすごく多いなか、しっかり終わらせるという姿勢は素晴らしいものだと感じます。
後継者が本腰を入れて準備できる
社長が辞める時を明確にするメリットは、後継者候補が存在しているケースにもあります。
先代社長が時期を明確にしておいてくれれば、後継者は準備ができます。
多くの事業承継の場面では、後継者にとって「いつ自分が社長と交代するのかわからない」という点が悪い方向に作用しているのです。
「本当に自分が社長になるのか分からない」
「仮に社長になるのは確実だとしても、いつのことかわからない」
こんな、はたして本番がくるのかわからない状況では、勉強や準備に身が入りません。
宙ぶらりんな状況に置かれるから、焦れて、心を腐らせます。
それがもし「3年後に俺は社長を辞めるから、おまえが社長になるぞ」と決めればどうでしょうか。
気合いも入ることでしょう。
予定も立てられます。
自分が社長になったあとに何があっても、すべては自分の責任です。
痛い目に遭うのは自分であって、誰も助けてくれないと思えば、しっかり準備をすることでしょう。
よくある「後継者に経営能力が備わったら会社を引継ぎましょう」なんていう、もっともらしい事業承継指南はインチキです。
締め切りを決めて、それに合わせて後継者に準備させるのが吉なのです。
事業承継のための株価対策もしやすくなる
純資産が豊かな会社等は、株式を後継者に渡すときに多額の資金が必要になったり、重たい税金がかかったりします。
そのため、意図的に脱税にならないレベルで株価を下げるスキームを組むことがあります。
社長が社長をやめる時期が明確になれば、株価対策もしやすくなります。
たとえば、株価対策として、会社で不動産を買うケースがあります。
不動産資産評価が時価から相続税評価に代わることで評価が圧縮され、結果的に株価も下がるという理屈利用するものです。
しかし、この取り組みが株価に反映されるのは、3年後です。
株価が下がったタイミングで後継者に株を渡したいところですが、社長をやめる時期が不確定では手をうまく打てません。
逆に、辞める時期がわかれば、効率よく株価対策等ができるのです。
社長が自分の人生を大切にすることにもつながる
準備という意味では、先代社長であるあなたも準備ができる点がメリットです。
社長を辞めたからといって、社長の人生が終わってしまうわけではありません。
あくまで新たなスタートです。
そして、期限を決めることで、社長を辞めたあとの人生に対する準備ができるようになります。
老後も楽しめる趣味をみつけておきたい。
自分一人でできる仕事をするため資格取得の勉強をしたい。
これまでなかなか行けなかった旅行の準備をしたい。
暮らしたい場所に引っ越すための情報収集をしたい。
やりたいことは人それぞれでしょう。
言えることは、在任中から社長を辞めた後にやることを見つけておいた方が絶対いいということです。
在任中から辞めたあとにやることを決めている社長のほうが、辞めた後もイキイキしているものです。
逆に「何やるかは、社長を辞めてから考えるよ」と言ってい人は、結局やることがないまま寂しそうだったり、急に老け込んだりしてしまっています。
社長を辞めた後、何をするか。
そのための準備をどうするか。
このあたりも、期限が決まるからこそ本腰を入れて考えられます。
社長にも自分の人生があるのです。
そんなことは当たり前だと思うかもしれません
しかし、みなさん「会社のことをどうしようか?」ばかりに目が行き、自分の人生をどうするのかが抜け落ちています。
嘆かわしいばかりです。
事業承継が滞りがちな一番の原因は、案外ここにあるのかもしれません。
社長が自分の人生をどうするかが見えていないから、会社の事業承継まで止まってしまうのです。
社長は自分の人生戦略を優先させなければいけません。
もっと一人の人間としての自分の人生を大切にしてください。
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