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『事業承継支援センター』では事業承継問題があまり解決しないと思う理由

目次

事業引継ぎ支援センターに違和感

小売りなどをやっているある会社が僕のところに、事業承継のパートナーとして声をかけてくださいました。

その地域では有名な小さな会社ですが、後継者がいません。

当初、商工会議所経由で『事業引継ぎ支援センタ―』へ話が持ち込まれましたそうです。しかし、何か違うと感じ、他を探していたところでウチを見つけたという経緯です。

その会社は知名度や個性があるので「それを伝えてほしい」と事業引継ぎ支援センターの人にお願いしました。しかし、センターの人は「名を出すと足元を見られる」などと、あれこれ反論して拒みました。「それでは、ウチの良さ伝えられない」と違和感を覚えたそうです。

また、現在、商店街にも店を出しているところ、間に立つ商工会議所が「たとえ誰かに承継しても、商店街から出て行かないこと」を約束させようとします。それでは後継者が見つかっても、その人のやり方を制限してしまうからよくないと、社長さんは考えていました。

事業承継問題という社会問題に対して、お上の肝いりで全国に作られた『事業引継ぎ支援センター』です。その課題を改めて考えてみました。

結局、出口はM&Aだけ

「事業承継の相談を引き受けます!」とアピールしている『事業引継ぎ支援センター』です。でも、その出口はМ&Aしか持ち合わせていないようです。既存のМ&A会社などと提携していて、そちらにつなぐだけの機能となっているのが実情。

事業承継に悩んでいるからといって、すべての社長が「会社を売りたい」と思っているわけではありません。会社を売りたい人以外の問題をこれでは解決できません。

センターは都道府県に一つありますが、会社によってはそのセンターまでアクセスするのが距離的に大変だったりします。そんな会社の社長が、わざわざ事業承継の相談のためにセンターまで足を伸ばしたあげく、「売りたくもないのに、М&A会社を紹介されただけだった」なんて、残念な話を聞いたこともあります。

キレイに売れる会社は少ないのに・・・

ならばМ&Aという出口の場合はうまくいっているのか。
どうも成功しているとは言い難いようです・・・

考えてみても、上場企業などと異なり、小さな会社でそのまま売れるものは少数派です。そもそも売れるレベルではなかったり、売れる可能性があっても、問題を整理してからでなければ売れない場合がほとんどです。

おそらく『事業引継ぎ支援センター』は、ひと手間かけて売れるかたちを作る腕も気概も持ち合わせてないでしょう。

冒頭の会社のような「名を出してほしい」という要望にも、臨機応変に対応することもできない様子です。本来ならば後継者の探し方だって、工夫次第でいろいろあるはずです。名を出して広く継ぎ手を集めたほうが有効なときだってあるでしょう。しかし、今の『事業引継ぎ支援センター』にはそれは求められなそうです。

しがらみに絡め取られる

冒頭の会社のように、商店街とのしがらみがあったりします。また、地域とのしがらみや、銀行とのしがらみが、事業承継において会社と利害を発生させることもありえます。

公的な立場な団体は、しがらみに弱いことが特徴です。しがらみを乗り越えてまで「何かを実現しよう」とリスクをとってくれることはないと、考えておいたほうが無難です。

もちろん、しがらみがあればあるほど事業承継の風通しが悪くなって、失敗する可能性は高まります。

相談員の力不足?

僕に言わせれば、誰が相談を受け、相談解決にむけてどうコーディネートするのかが一番重要なポイントです。では、『事業引継ぎ支援センター』の場合、それは誰なのでしょうか?

紹介文には「経験豊富な相談員が・・・」とあったりしますが、鵜呑みにできません。実際、センターの運営に関わっている人やその周辺にいる人からは「相談が来てもМ&A会社を紹介する以外のことをできていない」と本音を聞いています。

このあたりのスキルの腕前は人それぞれ。相談員の中でも力がある人はあるし、そうでない人は・・・なのでしょう。

やはり会社の命運を担う事業承継となれば通常の経営相談とは勝手が違います。そう簡単ではないはず。相談員として長年やってきたところで、現場にまみれたことがなければ、適切なアドバイスやコーディネートをするのは難しいと感じます。

相談員が自分の責任で仕事をできない点も気になります。

私どもの通常の相談業務でしたら、個人(または会社)の看板として指名を受け、こちらも責任を背負いながらアドバイスをします。自分が責任を負えるので、いざとなれば思い切った話をすることもあります。

しかし、このようなセンターでは、あくまでセンターの相談員として、匿名的なかかわり方をすることになるでしょう。するとセンターとの関係上、問題を起こしたくないという心理がはたらき、結果的に通り一遍の話に終始してしまうのではないでしょうか。

こういうのは、お役所などが開催している法律相談などでよくみられる図式です。相談を持ち込んだ人間としては、歯がゆい思いをさせらるパターンです。

おわりに

ここまで書いてみて、「上っ面の形式的な仕組みづくりだけで、事業承継の問題を解決しよう」という考えが根底にあるように感じました。その発想を捨てないかぎり、事業承継の問題はそんなに解決できないと思われます。

いわば「もっと泥にまみれましょう!」です。

地域の小さな会社の問題は、もっとウェットだし、ややこしいもの。それを解決するには、手間をかけたり、リスクをとったりする必要もあるはずです。

形式論にとどまらない、ヒューマンタッチな取り組みが求められると思います。

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この記事を書いた人

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継デザイナー
これまで関わった会社は1000社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられた神戸に住むコンサルタントです。
最新著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?』
ゴールを見すえる社長のための会【着地戦略会】主宰

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