鳥取大丸の会社分割による再建策を解説
産経ニュースで、鳥取大丸の会社分割についての記事がSNSで回ってきました。
『会社分割ドットコム』を運営し、個人のプレーヤーとしてはかなりの数の会社分割を企画してきた奥村としてはスルーしづらいところ。
ニュースの裏の思惑などを解説してみましょう。
経営者のみならず、債権者、スポンサーとしてどこかの会社を支援するかもしれない方は、知っておいて損はないやり方だと思います。
なお、当事者から裏をとったわけではありませんので、ほとんどの部分は憶測であることをご了承ください。
会社分割の意図
まず、今回の会社分割は、鳥取大丸の債務超過の解消と再建が目的です。
債務超過とは、資産よりも負債のほうが多くなってしまっている状況です。
このまま会社の営業を止めたときに、残りの借金が返せない状況をイメージしていただければ、あながち外れていません。
鳥取大丸から、スポンサーとなる日ノ丸グループと山陰合銀行が設立した「ティー・エー・オー」という会社に百貨店事業が会社分割で引き継がれます。
おそらく会社分割の中でも吸収分割と呼ばれるパターンで、切り離された百貨店事業はティー・エー・オーと同化させられるのでしょう。
会社分割の際に負債を旧会社に残したままにしておけば、債務超過は解消されます。
事業やそれに伴う資産だけを新しい会社に引き継がせます。
それでも負債は旧会社に残されたままです。
新しい会社とすれば、負債と切り離して事業と資産だけ手に入れることに成功。
めでたく債務超過から脱出できるという理屈になります。
今回の件では、鳥取大丸の負債21億5千万円のうち、12億円の銀行借入が旧会社に残されるようです。
なお、負債のうちすべてが銀行借入ではありません。
買掛金の未払いなど他にも様々な負債があります。
おそらく、それらは新しい会社に引き継がれ、そちらで弁済されるのでしょう。
スポンサーの意図は?
各利害関係者の思惑を考えていきましょう。
まず、スポンサー(日ノ丸グループと山陰合銀行)の思惑です。
おそらくスポーンサーがこの絵を描き「会社分割スキームならばお金を出す」と条件を提示したと思われます。
負債に足を取られていては再建などおぼつきません。
スポンサーは15億円を調達して投資するつもりのようです。
もし会社分割をしないままの状態(債務超過の状態)で資金提供をしたら、既存の借金の返済のためにお金を使われてしまうのがオチです。
そんな無駄なことは当然したくありません。
逆に会社分割で、12億の銀行借入と百貨店事業が切り離されるならば、後者にお金を出す価値があると考えたのでしょう。
もしかしたら「会社分割なんて面倒なことをしないで、銀行が債務放棄をすればよかったじゃないか?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。
するどいですね。
実務では、借金だけを放棄してもらい、会社はそのまま経営すると大きな課税が発生する場合があります。
今回もそれを回避するための手だったのかと思いますが、実際のところはわかりません。
銀行はなぜ損させられることに同意したか?
借金を残された旧会社は、清算をして会社をたたむ方向のようです。
百貨店事業が無くなり、大きな借金だけが残っているのだから当然といえば当然です。
残った借金については、債権者である金融機関も放棄することで同意しているとニュース記事には書いてありました。
ここで不思議なのが、「なぜ金融機関は損をさせられることを受け入れているのか?」でしょう。
借金だけ残して事業は外にもっていかれたら、返済を受けられなくなるのは当然です。
普通の感覚ならば必死で抵抗するでしょう。
それでもこのスキームに同意している理由はなんなのでしょうか。
ひとつに、鳥取大丸がこのまま倒産した場合に回収できる借金が、この会社分割スキームよりも少ないと見込まれているのかもしれません。
12億の貸付が踏み倒されたとしても、借金の回収額として、このまま倒産されるよりはマシなケースです。
債権者といえど相手が倒産したり廃業することは止められません。
それよりもマシなストーリーだったため、受け入れるしか仕方なかったということもあり得ます。
また、地域経済へのダメージなどから、自行の貸付の回収にこだわって会社を倒産させるよりも、残せる道を選んだほうが賢明だとという考えもあったのかもしれません。
銀行は自社の利益だけを考えていてはいけない存在です。
また、会社分割スキームの先に、自行のビジネスチャンスがあるとふんでいたのかもしれません。
これからの鳥取大丸……
新会社は会社分割後、ティー・エー・オーから「鳥取大丸」に商号変更をして百貨店営業を継続するようです。
旧会社の名称を再び新会社が名乗る模様です。
「そんなことできるの?」と思われるかもしれませんが、それは可能です。
新会社が鳥取大丸を名乗ることで、顧客への信用を継続しようとしているのでしょう。
さらに言えば、この倒産的な情報を払拭する意図もあるように思います。
このニュースを知らない人からすれば、新会社が前と同じ名前を名乗ることで、なんの変化もなくこれまでどおり鳥取大丸が続いているように見えるはずです。
会社分割スキームで、鳥取大丸の財務内容は大きく改善されます。
ただ、本当の勝負はこれからです。
利益をあげられない状況が続いていたからの債務超過であり、これまでと同じことをしていたら再び赤字に転落してしまいます。
店舗の大規模改装や新ブランド誘致などを考えているようですが、結果はどうでしょうか。
経営環境が変わってしまった現代で、地方の百貨店が生き残ることはきっと簡単ではないのでしょう。
中小零細企業でも使えるスキーム
ここまで鳥取大丸の会社分割を解説してきました。
その記事を書いた目的は、このスキームが普通の中小零細企業でも活用できるものだと知っていただくためです。
このやり方を知っていれば事業を残し、顧客や従業員、さらには地域へのダメージを最小に抑えることができるかもしれません。
いざというときの参考になれば幸いです。