1000社の相談で得られた経験と知恵をシェアします メルマガ登録

最終回 ヤメ大卒業式

ヤメ大もついに最終回がやってきました。

「社長のおわり」というテーマは、世間はほとんど語られません。語られることはあっても、きわめて断片的です。

起業した方、事業を引き継いだ方。皆さんはそれぞれの物語を持って、経営の世界に足を踏み入れたと思います。でも、そこからどうやって抜け出すかを、誰かに教えてもらったことはありましたか。入口のガイドはあるけれど、出口のガイドはほとんどないのです。

しかし社長のおわりは、誰もが、いつかは行きつく先です。

そこで「いっちょやったるか!」と学長の私は、頼まれてもいないのに動きました。

これまで、数多の社長のおわり、様々なパターンの社長のおわりに接してきた私こそ適任者だと自負しました(勘違いかもしれません)。仕事を通じていただいた経験や知恵を世に還元しなければならないという使命感にも背中を押されました(これまた気のせいだったかもしれません)。

戦においては撤退が一番難しいと言われるように、社長業においても引き際はとても難しいものです。事実、タイミングを逃して右往左往している社長がたくさんいます。「もっとうまくやれたらよかったのに」と、残念な結果におわったケースなんて世間にはゴロゴロ転がっています。

「社長のおわりを、よりよいものにするぞ!」

こんな思いでヤメ大はスタートさせました。

ヤメ大では2つの柱を立てました。全体像を伝えることと、戦略の作り方です。

会社を着地させることも、社長をやめることも、ほとんどの人にとってははじめての体験です。はじめてのことならばうまくできなくて当然です。迷うべくして迷います。

そんなとき頼りになるのは、やっぱり地図ですね。

地図さえあれば、はじめての地でもうまく歩けます。少なくとも、地図がないときに比べれば、迷子になってしまう可能性を大きく減らせます。

そこで私は、会社のおわり、社長のおわりに関する全体像を描いてみなさんに伝えようとしました。廃業や社内承継といった会社の着地から、倒産や社長の死去という強制終了までの範囲を網羅させました。

また語る内容は、法律の条文の解説や小手先のテクニックの紹介を極力避けました。これらはどこか別のところでも容易に入手できる情報です。それよりももっと本質的で、みなさんが歩んでいくための知恵になるものを届けようと努めました。

「社長のおわりにはこんな景色が広がっているんだ」と感じ取っていただくことはできたでしょうか。

全体像を押さえておくことに大きな意味があると考えています。

自分の興味のあるおわりだけ学んで、他はスルーした人はいませんか。怒りませんから手を挙げてください。

手が挙がった方は、ぜひ戻って他のおわりについても学んでください。たとえばM&Aだけに興味があった方が、他の講義をスルーしてしまったとしたらもったいない話です。他の分野には思わぬ気づきが落ちていることでしょう。

それぞれの会社の着地のさせ方も、任意のおわりと強制終了も、それぞれが孤立しているのではありません。絡み合っています。

実務でも状況が変わり、当初に立てたプランを変更し、別のおわり方に切り替えなければいけなくなることなんて当たり前に起きます。だからこそ、おわりの全体をおさえておいてください。

全体像の地図を頭に入れたら、次は自分のための戦略および計画づくりです。

自分はどこを目指し、どう進んでいくのか。自分だけの旅を企画してください。ヤメ大の講義中には、戦略等を組み立てるための手順をお伝えしました。

おわりに対する意識を持っているか、漫然と日々を過ごしておわりをむかえてしまうか。この両者の差は歴然としたものになります。

みなさんには、悔いなく、やり切って、社長人生を卒業していただきたいと願います。それこそ、会社への未練なんてみじんも残らないくらいに。

目次

会社を譲っても社長が会社に残るべきか?

ちまたの社長の中には、社長をやめても、まだ会社に影響力を持ちたがる方がいらっしゃいます。会社に居残ろうとする方もいます。

本人にその気がなくとも、結果的にそうなるケースもあるようですが……。

「会長みたいな立場で、週に1,2回だけ会社に顔を出して、新社長をサポートしながらゆとりを保って仕事をしたい」

引退後の姿を理想として、こんなことを語る社長はたくさんいます。見守り役ですね。しかし言葉とは裏腹、見守り役を超えた存在になってしまうケースも少なくありません。

社内承継を実施し、社長の肩書は子供や従業員に継がせた。でも実権は先代のもとに残ってしまっている。このような状態になっていることがあるのです。
こうなると、誰をトップとすればいいのかわからなくなって社内が混乱します。後継者としては、自分が思うよう経営ができなくなって、力を発揮できません。人任せになることで経営的な責任を負わなくなるため、肚をくくることもできなくなるでしょう。

似たような問題はM&Aでも起きることがあります。

第7回目の講義でも触れましたが、M&Aの交渉の流れで買い手から「社長さんはいつまででも会社に残ってください」なんてオファーを受けるケースがあります。そんなことを言ってもらったら、売り手の社長としても気分がいいでしょう。必要とされればうれしいし、自分の居場所をのこしてもらえることはありがたいことです。

しかし私は、社長が会社に残ることを否定的に捉えています。このことはすでに述べましたね。

一方で、普通のM&A会社の担当者ならば「いいですね」と、好意的な反応を示すことが多いことでしょう。

M&A後トラブルになったケースを見たことがないのかもしれません。

でもそれ以上に、いい感じに進んでいる縁談に水を差したくないのでしょう。売り手と買い手がいい雰囲気で、会社に残ることに対して売り手の社長もまんざらでもない。だったらそのまま後押ししたほうがM&Aが成立しやすい(=自分の仕事の成績がよくなる)と考えるのは自然です。

会社に残ったことで前の社長が嫌な思いをすることになろうが、正直、M&A会社の担当者からすればどうでもいいのです。あくまでM&Aを成約させて成功報酬を手に入れることが目的です。そのための手間も面倒もできるだけ減らしたいというのが、ほとんどの担当者の本性です。

なんでも性善説で人を見て、疑うことなく助言を受け入れることは危険です。目の前の人間は何を志向しているのか。アンテナを張って察知しておきたいところです。

社内承継でもM&Aでも、会社に前社長が残り続けることがあります。そしてこの場合、トラブルが起きやすくなります。ぜひ押さえておいてください。

とはいえ「トラブルになるから会社には絶対残るな」と言うつもりはありません。ときには残ったほうがいいとき、残らざるを得ないときもあることでしょう。

ただ、会社に残るか否かを判断する際に、確認していただきたいことがあります。

あなたを会社に残させようとするものの正体は「会社に対する未練」ではないでしょうか。未練があるから、ついつい会社に残る方向でものを考えてしまう。こうなっていませんか。

中途半端はよろしくありません。

会社をやめるなら、やめる。社長を続けるなら、続ける。ハッキリさせるべきでしょう。

未練で会社に残ろうとするくらいなら、未練を残らないくらいに社長業をやり切ること。そのために、自分だけのおわりの戦略と計画を隠し持っている意義があるのです。

会社のことでいつまでもイライラさせられるあわれさ

「そんなこと言うけど、自分が引退した後に、会社が傾いたらどうするんだ?」

こんな疑問をぶつけられることがあります。

もう手放したものです。あきらめましょう。自分がまた社長に戻って建て直す、という発想はオススメしません。

実際のところ、ほとんどのケースでは、先代が戻ったところでどうにかなるものではなかったりします。

一度会社から離れたら、自分は何もできない(何もしない)と、いさぎよく一線を画してしまった方がいいと感じます。
会社を譲ったものの、その後継者のやり方に対して、不満を募らせてイライラしている元社長の姿を見ることがあります。

「まったく経営というものが分かってない」

「自分のところにちゃんと報告にこない」

挙句の果てには「後継者が約束を守っていないから裁判を起こす」とまで言い出した元社長もいました。ここまでくるとあわれです。

引退したら会社に執着しないこと。様々なケースを見てきた私の結論です。会社への執着がトラブルの原因になるし、なによりあなたを不幸にします。

難しいことに、自分が会社に対して執着してしまっていることは、自覚できないようです。

つい最近、これから後継者となる従業員から請われて、事業承継に関する先代社長との話し合いに同席したことがあります。

社長の退職金をどうやって払うかという話題になったとき、後継者は「会社で銀行から借金をして、そのお金を退職金に充てるつもりだ」と自分の考えを語りました。

それに対して、社長は反対しました。「設備投資をするつもりだから、会社の借金を増やしてしまうと、その時金を借りられなくなるかもしれない。だからダメだ」と言うのです。
この人は何を言っているのだ、と私は思いましたね。

だって、この社長は、近々会社を去る人です。設備投資をするもしないも、決めるのはこの人ではありません。その時社長をしている後継者の役割です。

どこまでも自分が経営をするつもりなのです。

なんというか、業の深さのようなものを感じました。社長というものは、本当に会社と自分を切り分けることができない生きものなのだと再認識させられました。

たとえ引退したとしても、すぐに変わるはずもないのでしょう。

少なくとも頭の中では「もう会社に執着しない!」と念じておいてください。

社長をやめたら、会社は他者のもの。あなたは、あなたの次の人生にフォーカスしてください。自分の人生を謳歌しましょう。

まな板の上の鯉になれるか

講義を通じていろいろと語ってきましたが、結局最後は、その人の次第という話になってしまうのでしょう。うまくいくも、いかないも。どんな結末を引き寄せるかも。

社長をやめるという究極的な場面だから、表面だけ取り繕ってうまくやるなんてできません。人間性が出てきてしまうのです。

願わくば「これが自分の社長としてのエンディングだ」と、堂々と、納得でおわりをむかえたいものです。

忘れられない社長がいました。

倒産の二文字が見えてくると、ほとんどの社長は焦り、浮き足だちます(それが普通ですよね)。でもその人は、大ピンチでも動じず、淡々としていました。
社長は、円安向けの為替関連のサービスを、銀行から半ば強制的に、大量に、買わされていました。金を貸しているという立場を使って有無を言わさなかったようです。担当者や支店の成績を上げるための押し売りという表現で間違っていないはずです。

ところがそれからすぐに、為替は大きく円高に転じてしまいました。結果、社長の会社は大きな損を被り、一気に倒産寸前にまで追い込まれていました。

そんな社長のことを心配した保険営業マンから私に依頼があり、私は社長の相談を受けることになりました。

すごく気落ちしているか、銀行に対して憤っているか。はたまた不安で焦っているか。とにかく私は、社長がネガティブな感情に飲み込まれていることを予想していました。世には資金繰りの苦悩で自殺を選んでしまう社長だっているくらいです。とても普通の精神状態ではないはずです。

ところが肩透かしをくらいました。

お会いした社長は、実に平然としていらっしゃったのです。

あとわずかで会社が潰れそうだということは事実だし(のちに本当に倒産しました)、社長本人も自覚しています。なのに、落ち着きはらっているのです。声に焦りは見えず、語りはどこまでもゆったりとしたものでした。
どうしてそんなに落ち着いていられるのですか、と思わず聞いてしまいました。

「自分で招いたことだからねぇ。ここまできたらどうしようもない。あとは、まな板の上の鯉になるだけだよ」
社長は答えました。強がりを言っている素振りは微塵も感じられません。実に自然体です。

すごいなと、感心させられてしまいました。こんな人がいるんだと、心底感動しました。

望まなくても危機がやってきてしまうことがあります。ただ、危機を前にした「あり方」については、自分次第なのですね。こんなときほど、人間性や器の大きさが現れます。

興味深いことです。

私がこれまで支援した社長の中には、華々しいゴールを迎えた方もたくさんいます。

会社を後継者に手渡し、5億円あまりの退職金を受け取って引退した方がいました。M&Aで株式を他社に売却し、20億円近いお金を手にした方もいました。

なのに私にとってより印象的で、憧れさえ抱くのが、会社を倒産させた社長なのですから。淡々とやるべきことをやり、結果を平然と受け入れられる人間に、私も少しは近づきたいところです。

最も大切なことは、結果ではないと教えてくれています。どんなおわり方になったか、いくらお金を手にしたかではありません。

事実、たくさんの退職金を手にしたけれど、その後、全然幸せではない社長がいます。引退後は不平不満に侵されて生きています。一方で倒産という最悪に見えるおわり方でも、しっかり結果を受け入れ、前向きに次の人生を創造していった社長もいるのです。

やっぱり究極のところは、結果の良し悪しではありません。

では、なにか。

本人のあり方や姿勢が勝負所です。結果ではなく、おわりのときに「どんなあなたでいられるか?」が問われています。

そのために、やるべきことをやっておく。人事を尽くして天命を待つ、です。最後は、まな板の上の鯉になれますように。

社長のおわりというテーマにおいて、目指すべき究極は、自分の納得です。

最後は満たされて社長の役目をおえてください。そのための方法論や必要な情報を、ヤメ大の講義で語ってきたつもりです。

次はあなたの番です

サラリーマンと違って、社長のキャリアには「定年」がありません。

誰かがゴールを設定してくれるわけでもありません。だからこそ、社長は「自分のゴール」を、自分で創らなければいけません。おわらされるのか、それとも、自分でおえるか、です。

ヤメ大は、社長のキャリアのおわりを創造的なものに変えるプロジェクトでした。

限られた時間のなかで、あなたは何を大切にして、自分の社長人生をどのように創っていくか。そのための視座を手に入れていただけたなら、ヤメ大は成功です。

ゴールに向かって歩むことこそが、社長業の真の醍醐味です。

社長をやめるために、社長をやる。奇妙に聞こえるかもしれませんが、数多の社長のおわりを見届けてきた私には、そう感じられます。

おしまいのときには、みなさんが「これまで、よくがんばってきた!」「やり切ったぞ!」と自分で自分をほめられるようになることを願ってやみません。

ヤメ大に入学していただき、まことにありがとうございました。

これもご縁です。人生の岐路に立ったとき、自分一人では決められないとき、少しでもヒントが欲しいとき、「そうだ、奥村に聞いてみよう」と思い出してもらえたらうれしい限りです。

お気軽にご相談ください。

あなたがこれまで背負ってきたものは、重く、大きな責任を伴うものでした。

でも、その重荷は一生背負い続けなければいけない義務ではありません。

自分の意思でおろしていいものです。誰だって、いつだって、「社長をやめる」という選択肢を持っています。

ヤメ大の講義はここまでです。
でも、皆さんの本当の卒業はまだ先です。無事に会社を着地させ、納得のもとに社長をやめられたときに祝わせてください。

「卒業おめでとうございます」と。

〜お知らせ〜
当サイトへのご訪問、誠にありがとうございます
ぜひ、メルマガ会員登録無料をなさっていってくださいませ

よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継・廃業コンサルタント

これまで関わった会社は1000社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられた神戸に住むコンサルタントです。

目次