後継者が先代から事業を引き継ぐ事業継承。
これを成功させるために、絶対欠いてはいけない条件があるとしましょう。
それは何か。
私ならば「後継者が自由にやれることが条件」と主張します。
会社を伸ばした後継者社長を見ると、みんな自由に経営をしているものです。
事業継承の前から、社内で自由にやらせてもらっていたりします。
反対に、先代社長が細かく指示を出しているような会社で、事業継承後の経営で成果をあげたケースを知りません。
先代がいいつまでも口を出すことは、マイナスにはたらくのです。
後継者や会社のためにと、良かれと思ってやっているのでしょう。
しかし、逆効果に。
後継者は、先代からの指示があることで、思考を止めてしまいます。
文句は言われたくない。
できることなら責任は回避したい。
こんな心理から「ことなかれ主義」にも陥ってしまうのでしょう。
「後継者は自分の経営スタイルを創らなければならない」
これは事業継承を乗り越えるための大前提です。
先代社長はこう考えがちなようです。
「俺が作ってきたレールを後継者はそのまま走ればいい」と。
しかし、それは簡単なようで、とても難しいことなのです。
今の会社の経営は、社長だからできたです。
社長が自分に合わせて作ってきたものなのです。
人が代われば、やり方も変えなければフィットしません。
「今の事業は先代の身体に合わせて作ったオーダースーツのようなものだ。
だから、後継者は自分の体に合わせて作り直さなければならない」
私の著書『今ある会社をリノベーションして起業する』には、このような記載があります。
親の事業を継いだ、その地域で有名な会計事務所のトップの先生が、この部分に強く共感したとコメントくれました。
自分の経験と照らし合わせても、まさにその通りだった、と。
事業継承とは既存の会社を引き継ぐことです。
しかし、そこには創造的な営みも必要だということを気が付かなければいけません。
創造性を育むには、自由な環境が与えられなければならないのです。
自由。
経営に関わる方には強く意識してもらいたい言葉です。
経営は自由を取り合う陣取りゲームなのかもしれないと思うことがあります。
顧客、従業員、銀行、株主、取引先・・・そしてライバルと、様々な利害関係者がいます。
そして気を抜くと、利害関係者から経営面の自由を奪われていくのです。
ライバルは市場のシェアを高め、こちらの会社の自由を奪ってきます。
社内では従業員からの要求により、経営の自由が制限されることもあります。
財務内容の悪化により、銀行の言いなりになってしまうことだってあります。
経営者は自分の自由を守らなければいけません。
同じことが先代と後継者の間でも言えるのです。
先代が後継者の自由を侵せば、事業継承は失敗します。
あなたが後継者の立場ならば、先代から自由を守らなければ、成功するものも失敗に終わるのです。
もちろん、自由は良いことばかりではありません。
義務もセットになります。
ときに苦しいものでもあります。
自由を与えれたとたんに何をしていいか分からなくなって途方に暮れる。
こんな苦痛を味わってしまう人もいるのでしょう。
しかし、自由を与えてもらって困るようなら、経営はやめたほうがいいかもしれません。
自由が与えられて何もできない。
それは新しいものを創造することができないという意味ですから。
厳しいことを言いました。
ただ、もう一つお伝えしておきましょう。
経営は、すべてを自力でどうにかしなければいけないというルールの上の勝負ではありません。
他人の力を活用して勝負したっていいのが経営です。
100m走に例えるなら、経営はどんな手段を使っても速くゴールすればいいというイメージです。
誰かに走り方を教えてもらっても、代理の人間に走らせても。
さらには自転車や馬に乗っても・・・
目的を達すれさえすればよく、その方法はいくつもあるのです。
先代との関係性が窮屈だ。
自分の経営ビジョンが見えない。
こんな悩みも、専門家などの他者を上手に活用したり、本やセミナーで学ぶなり、クリアする方法はいくらでもあるはずです。
最後にもう一度繰り返します。
事業継承を成功させたければ、自由を確保することが最低条件です。