【新刊】『0円で会社を買って、死ぬまで年収1000万円 (光文社新書)』
奥村が廃業の相談を受けた時には、すでに交渉がスタートしていました。
会社をたたむにつき、別の同業他社に「既存のお客さんを引き継いでもらう」という話が少し進んでしまっていたのです。
しかも、無料で。
お客さんを引き継がせてもらった相手の会社は、年間利益をかなり増やせます。
こちらとしては引継ぎを行うために、エネルギーと神経を使わされるものだったりもします。
それを無料で渡してしまっていいのでしょうか。
僕の見立てでは、3000万円以上の対価をいただくのが適切だと考えました。
社長には、会社をたたんだ後の生活もあるし、借金だって残っているのですから。
僕は交渉の仕切り直しを提案しました。
会社をたたんだ後に残るかもしれない借金の対応や、資産を手放す順序などで悩んだ社長の奥様から、たまたま奥村は請われました。
このきっかけがなければ、この話はそのまま止まれなかったでしょう。
社長も「もし対価をいただけるなら助かる」と乗り気になり、私はコーディネート役を引き受けることになりました。
私のお客さんは、とある大手メーカーの代理店です。
メーカーより部品を仕入れ、それを他の会社に売却する卸業です。
今、顧客の引継ぎ交渉をしている相手は、このメーカーから推薦してもらった相手です。
そこで、交渉を仕切り直させていただくためには、まずメーカーの同意と協力が不可欠だとなりました。
メーカーの担当者たちと社長、そして僕はホテルのロビーで話し合いに臨みました。
メーカーの方々からすれば、迷惑な話です。
話が進みはじめてから、別の重要な条件を出されたのですから。
「だったら、最初から言えよ」というのが本心でしょう。
僕は前向きに受け取っていただけるように、説明を尽くしました。
一般的なМ&Aでの譲渡対価の設定と比べたら、対価が発生したとしても、まだ相手にとってお得なであること。
こちら側の社長には今後の生活もあるし、借金も残るのでなんとか協力してほしいこと、等。
メーカーの担当者さんは、嫌な顔せずに話を聞いてくれました。
そのうえで、今後、交渉相手と話を仕切り直しする方策についてディスカッションできました。
事件は、無事にこの話し合いのゴールが見え、雑談をしていたときに起きました。
社長が軽快に語り始めます。
「私はね、別にお金が欲しいわけじゃないんですよ」
さらに「お客さんにさえ迷惑をかけなければいいのです」とも。
格好つけて、いい顔をしたくなったのでしょう。
私は、金にガメツクないよ。
私は、自分の利益を求めているのではないよ、と。
中小企業の社長には、交渉でこんなタイプはたくさんいます。
しかし、この期に及んでです。
みんな社長のために時間と労力を使って、わざわざ集まっているのですから。
「事業譲渡の対価がいらないなら、何のための話し合いだよ」と、馬鹿らしく思うのが普通でしょう。
僕は、マズいと思って、大げさに社長を叱らせてもらいました。
「お金がいらないというなら、今日の話し合いは無意味でしたね。あとは勝手に一人で損をしてください!」と。
私が怒りを現すことで、メーカーの担当者の気持ちを代弁できるからです。
また、他人が感情的になると、残された人は怒っていてもトーンダウンするものでしょう。
まあ、半分は本当に腹が立っての発言ですが。
途中ではしごを外すようなことを言いだすのは、ルール違反も甚だしいですからね。
「すいませんでした」と、社長が素直に自分の失言を認めてくれたことで、事なきをえました。
この件をあらためて考えてみると、いろんな教訓が得られそうです。
初心者が無策で先に進んでしまうこと。
第三者の関わらせ方。
人に動いてもらうときの態度……等。
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