『後継者育成』をテーマにした雑誌の企画がありました。
その時に記事をご紹介いたします。
二代目として会社を伸ばしてきた諏訪商店ホールディングスの諏訪寿一社長との対話から、事業継承成功の糸口を探してみます。
[諏訪商店ホールディングス]
2003年に諏訪寿一社長が就任以来、千葉県の物産品の製造や卸、土産物店の運営などを行ってきた。
スタッフは50人から220人に増え、『㈱やます』をはじめとするグループ会社が7社、今後はニューヨークへの進出も計画中。
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先代の仕事は後継者が自由にやれる環境を作ること
諏訪さんは、いまの会社の姿があるのは「経営計画書」を作成したからだと言います。
経営計画書というと、銀行に提出するために数字を羅列したようなものを思い浮かべる方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、ここでいうそれは、会社の行き先や自分たちのあり方を定めたものです。
諏訪さんもこう語っています。
「計画書には目標の数字も載っていましたが、数字よりも、自分たちがこんなチームになろうと掲げた姿を実現するほうが大切だと、社員らに粘り強く何度も言い続けました」。
この〝粘り強く何度も〟が、ひとつのポイントといえそうです。
「後継者に覚悟を持たせるのは難しい」という話題にもなりました。
これは相談を受けることが多い私たちの実感でもあります。
会社を背負う覚悟がなければ成功はできません。
覚悟ない者に押しつけては不幸にさせてしまいます。
先代がやるべきことは、後継者が自由にやれる環境をつくること、というのが諏訪さんと僕の共通した見解でした。
例えば「こんな勉強をしたい」と後継者が言えば、先代はそれをやらせてあげるという具合に。
そのうえで、覚悟が芽生えるのを待つしかないのです。
「後継者がわが子の場合、親が直接指導するのは難しいかもしれない」という諏訪さんの意見もありました。
血縁という濃く特別な関係がゆえのことです。
経験を積ませるという意味では、後継者が外の会社に入社してみるのも有効なのでしょう。
諏訪さんの場合は、自分が将来めざしたい規模と内容の会社を選んで入社させてもらったそうです。
それ以外にも、新しい別の会社を後継者が設立して、ゼロから立ち上げを学んでもらうのもよい経験となりそうです。
後継者のメンター(指導者)の存在も大切です。
かつて親である社長に関して不満ばかりを口にしていた後継者に、諏訪さんは「親のよいところを認めろ。そして、親がダメなところをフォローしろ。そうすれば君は親を超える経営者になれる」とアドバイスしたそうです。
感銘を受けた後継者は、その言葉を実行し、いまでは会社を継いで飛躍させているとのことです。
これからの後継者には「売る力」が必要
現在のような経済成長の後押しがない商売環境で、後継者にいちばん求められる能力は「売る力」だと考えます。
しかし、売り方というのは業種、業態によって異なるもの。
それでも何か法則のようなものを見つけるならば、「成功している後継者はひとつのことを徹底して続けている」ことだと思います。
新しい集客方法やPR手段に振り回される人がいる一方、成功している後継者は信念を持って取り組んでいるのです。
諏訪さんもそうでした。
「社長になってから、定期的に周辺にチラシをまこうと決めました。内容は、目の前の売り上げにつながる安売りの情報ではなく、生産者さんの紹介などです。弊社のことを知っていただきたいと思って続けてきました」と。
東日本大震災後の苦しいときでも、やめずに続けたと語ります。
自分たちのやり方を確立できるまで、強い覚悟で探り続けなければ、本当の力にはならないのでしょう。
「取組みスタート時の思惑も大切ですよね」とも諏訪さんは語ります。
例えば、新商品を作ったときに、「一発当てたい」と自己利益が先に立ってしまったものは、失敗するケースが多かったそうです。
逆に、「生産者さんが困っているからどうにかしてあげたい」、「こんなお客さんによろこんでもらいたい」といったところから始まっていたケースはうまくいったそうです。
誰でもお金を追い求めたくなるときがあります。
経営者も人間なので、自己の利益に目を奪われるときはあるはずです。
しかし、そんな思いにブレーキをかけ、お客さんをはじめとする他者に思いを寄り添わせることができるかどうか。
結局これが、「売る力」の源なのだと思います。