『問題の所在』
■ 会長の息子(オーナー一族)の後継者候補者の経営能力が未知数
■ 親族外の経営幹部への承継の場合、
株式の買取りのための資金調達が困難
■ オーナー一族の財産と言うべき資産を、
一族外の人間に預けることへの抵抗
オーナー一族が代々経営をしてきた、食品関係の会社の社長からの事業承継の相談です。
運営会社は本社や倉庫などの不動産を所有しています。
また、本業とは関係のないアパートも所有しています。
一方、借金はあまりないため、会社の株価は高額なものとなる様子です。
会社には二人の後継者候補がいました。
一人は、現会長の息子。
オーナー一族の人間です。
もう一人は、オーナー一族とは血縁のない経営幹部。
現会長の息子が承継する場合、相続の流れで息子に会社の株式を集めることは、税金の問題は残るものの比較的容易です。
オーナー一族としても、親族外の人間が社長になるような抵抗感がありません。
しかし、彼の経営者としての力量が未知数です。
経験も浅く、正直なところ、リーダシップに不安があると社長は考えていました。
会社の資産状況はまだ良いものの、外部環境の悪化もあって事業の先行きは難しいものがあるのです。
そんな難しい時代に、はたして「会長の息子だから」で、社長を選んでいいのだろうか・・・
社長は悩みます。
では、もう一人の候補者である、経営幹部はいかがでしょうか。
長年経験を積み能力も高く、社員からの人望も厚いとのこと。
「社長を任せても間違いはないだろう」
社長はこう思っています。
しかし、「会社の株式をいかに渡すか」の点に問題があります。
株式は高額となるため、勤め人だった経営幹部にはその株を買い取るような資金はありません。
ならば、株式を持たない「雇われ社長」では? と考えるところですが、やはり、その立場は難しいものがあります。
また、オーナー一族以外の人間に社長の権限を委譲することに対し、理解が得ることは簡単なことではなさそうです。
後継者は、会長の息子か、それとも経営幹部か?
どちらにも一長一短あって、難しいところです。
こんな局面につき、弊社からの提案はこのようなものでした。
「会社を資産管理会社と事業会社に分けましょう」
資産を保有するための会社と、事業を行うための会社。
会社を目的によって分けることで、今回の事情に適した事業承継が実現できると考えました。
まず、資産管理会社には、不動産などの資産を保有させます。
そして、この会社の社長には会長の息子を置きます。
「会社=資産」という意味を持ち、ある意味、 オーナー一族の「所有物」として扱ってよい会社です。
ゆえに、社長の血筋で選ぶことが適しているでしょう。
今回は、本業に関係ない収益アパートなども所有していたため、なお不動産を事業と別にする意味があります。
もう一方の事業会社には、本業の事業とそれを担う雇用を受け持ちます。
ストックのための資産管理会社に対し、事業によるフローのための会社です。
上手くやり繰りしながら生き抜いていくことが求められるため、社長の経営能力が欠かせません。
今回ならば、経営幹部の方に社長に就任してもらうべきでしょう。
今後は資産管理会社に本社や倉庫などの利用料を払いながら、事業を継続していくことになるのです。
この提案では、大きな不動産資産がオーナー一族の手元に残ったため、一族からの了解を得ることができました。
また、事業会社は大きな資産を保有しなくなったため株価が小さくなり、 事業会社の社長となる経営幹部が買い取ることができるようになったのです。
『解決のポイント』
■ 分社化の手法を使い、
血縁と能力を持つそれぞれの後継者に合わせた会社を作って承継させた
■ オーナー一族の会社に対する所有意識と、
株式の買取り資金の問題もクリア