「今日の16時までと、18時が過ぎたときでは、驚くほどに気分が変わった。
嘘のように気持ちが軽くなった」
コーチングを実施させていただいた、クライアントの社長さんの感想でした。
ずっと会社をどうしたらいいか悩んでいらっしゃいました。
いや、おそらく「こうするしかない」という結論はうっすら見えているのでしょう。
とある事情で、今後は、あとわずかしか仕事を引き受けられない状況です。
新しいキャパシティを作るための努力はもう何年も続けてきましたが、成果は得られていません。
希望的観測を排除すれば、ここにきて奇跡が起きることなんてありません。
仕事を引き受けられなくなれば、売り上げは大激減です。
今いる従業員の雇用を維持をすることも困難になるのは明白です。
ここまでくれば、自ら決断して「終わり」をつくるのが定石だろう。
しかし、それを認めたくない。
認めていいのかわからない。
「まわりの経営者たちはバリバリ仕事をしている。
なんで自分は同じようにできないのか」
深い悩みの海のそこで漂っていらっしゃいました。
このところは気力がまったく出なくなり、会社に顔を出さないで家で寝ている時も多いと言います。
しかし、家にいても家族の目が気になるし、自分はなにをやってるんだと、自己嫌悪になるそうです
心療内科も試してみましたが、薬を出されるだけで話はろくに聞いてくれない。
何も改善する気がしないため、通うことをやめてしまったそうです。
こちらの社長さんとは、これまで2回ほど個別相談をしました。
これまでは私のほうから廃業や事業縮小について解説したり、アドバイスをしました。
でも、社長にはまだ一歩を踏み出す力が湧いてきません。
内面が整わないことには行動に移せないだろうと考え、今回はコーチング的なアプローチに振り切ってみることにしました。
コーチングといっても話をすることに違いはありません。
ただし、これまでのように奥村が教えるというよりは、クライアントから引き出すという感じです。
今、何をどう悩んでいるのか。
そして自分はどうしたいのか。
答えは本人にあるという前提で、主に私が質問をしながら対話を進めていきます。
「今は不安に怯えている。
そして、安心がほしい」
「正直、もう会社はやりたくない」
社長は素直に本音を口に出せるようになってきました。
「でも、それが正しいのか・・・」
するとすぐに自分の本音に対する思考のブレーキがかけられます。
「社長は『正しいか?』という言葉を使うことが多いですよね」
奥村からフィードバックをしました。
ここが今回のポイントになりました。
正しいか、正しくないか。
社長のこれまでの判断基準だったのです。
でも、正しさって何か。
そもそも正しさって本当に存在しているのか。
問いから社長が思考の土台としていたものが揺らいできました。
一般的に正しいと思われること、世間的な常識に、社長はずっと縛られてきたことがわかりました。
今回の相談テーマでは「社長はいつまでも会社を続けなければいけない」という常識です。
自分を苦しめていたのは「正しことをしなければいけない」という呪縛だったのです。
一方で、自分が本当はどうしたいのかという声には耳を塞いできました。
こうなると、心が健康でいられなくなっても不思議ではありません。
苦しさ、つらさの、原因がわかった。
これは大収穫です。
気持ちがスッとされたのでしょうか、穏やかな笑顔が浮かぶようになりました。
何十年もそれで生きてきたのだから、たった1回の個別相談ですべてがうまくいくようになることはないでしょう。
しかし自分を理解できたことで、生きやすくなるし、うまくやっていける可能性は増したはずです。
「世間がどう見るかではなく、自分の本音を大切にしたい」
社長は自分なりの結論を見つけました。
廃業や事業承継の話が進まない原因が、実は、社長の内側にあるケースはたくさんあります。
税金や法律の問題ではないのです。
すごく見落とされているポイントです。
奥村使命は、会社を売ることでも、たたむことでもありません。
それらは二次的なものにすぎません。
あくまで社長の人生を良くすることが真の目的です。
「こんな相談までしていいのか」なんて気にしないで声をかけてほしいです。