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スタジオジブリが日テレ子会社に。後継者育成を考える

スタジオジブリは、日本テレビに買収され、子会社となった。

【東京新聞Webの関連記事】
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とあるM&A業界の情報通は、売却価格は200億以内だろうと見積もっていた。
売却金額だけにこだわるならば、外資系のコンテンツ会社(ディズニー等)にでも売ればよかったのだろう。
桁がひとつ増えたかもしれない。
日テレを選んだということは、スタジオジブリがお金よりも、相手との関係性を重視したということだ。


これでスタジオジブリの事業承継問題は決着がついた。
宮崎駿というスーパースターが引っ張ってきた会社に、ようやく次の道筋が見えたのだ。

現在の宮崎駿は82歳。
いわゆる“番頭さん”であるプロデューサーの鈴木敏夫は75歳。
これだけ世間に名が通った会社であることを考えれば、事業承継問題の解決にかなり時間がかかったといえよう。


なぜこう時間がかかってしまったのか。
ストレートに言わせてもらえば、宮崎駿の長男たる宮崎吾郎の“ものたりなさ”がすべてだろう。




宮崎吾郎は56歳。
スタジオジブリでクリエーターとして働いてきた。
そんな彼がスタジオジブリを継げば、宮崎家の事業承継はあっさり終了するはずだった。
でも、それはかなわなかった。
経営者としての才覚、クリエーターとしての突出した才能、残念ながらそのいずれも持ち合わせていなかったようだ。

「スタジオジブリは宮崎家が支配するべきではない」という宮崎駿の考えが、記者会見でプロデューサーの鈴木記者会見によって引用されていたが、こんなのは後付けでしかない。
後継者の席に最短距離にいた宮崎吾郎の能力が十分に足りていれば、誰が支配すべきかなど考える余地はなかったはずだ。

本人もこの責任から逃げたかったのかもしれない。
宮崎吾郎が「一人でジブリを背負うことは難しい、会社の将来については他に任せた方が良い、との考えから事業承継を固辞してきた」とコメントされていた。
たしかにスタジオジブリという存在は大きくなりすぎたのだ。
社会における存在感の大きさは、経営を担う人材の間口を狭くする。


ここまでの話、簡単にまとめてしまえば「後継者育成の失敗」ということになる。
では、あらためて考えてみたい。
はたして、候補であった宮崎吾郎を経営者として育てることはできなかったのだろうか。

コンサルティングの仕事で、事業承継の現場にもたくさん居合わせてきた私である。
当然、後継者育成の議論を耳にする機会も多かった。

そこで気づいたことは、後継者育成方法について、いとも簡単に答えを語る人間があまりに多かったことだ。
公的な経営支援者であったり、資格を持った先生業の人など、いずれも指導的な立場だったりする。

私からすると、よくそんな簡単に言えるなという感じだ。
実にいい加減である。
会社の社運と、後継者になる人の人生がかかっている話だ。
もっと深く考えましょう、と言いたい。


簡単に育成を語る人々の典型的な口ぶりは「後継者を育てるならば、これをさせればいい」といったものである。
後継者にはどこどこの経営塾に通わせておけとか、まず簿記の資格を取らせろ、とかだ。

まずこのタイプの面々は、人の育成というものがコントロール可能であるという前提に立っていることがうかがえる。
そして、マニュアル的だ。
材料をそろえてレンジでチンでもすれば、経営者が出来上がるとでも思っているのだろうか・・・

まずもって、人の成長を他人がコントロールすることなんてできない。
子供であれ、生徒であれ、部下であれ、ついでに言えばペットの犬でもだ。

少しでも経験がある人ならば、ちょっと冷静に考えればわかるだろう。
自分自身の成長ですらまったく思うようにはできないのだから。

ところがいざ指導する側になると、どうやらこの事実を忘れてしまうようだ。
相手をコントロールしようとしてしまう。

相手をコントロールしようとすると、なにかの『押しつけ』が起きる。
これが、人の成長に対する最大のNGだろう。
成長の最大の資源たる意欲や自発性を奪い、創意工夫を失わせてしまう。

なのに、指導側の人間は逆のスタンスを取ってしまいがちだ。
ここで言う「指導側の人間」には、コンサルタント等だけでなく、先代の社長も含まれてくる。
「後継者に○○“させる”」という言葉がよく聞かれるが、“させる”という響きが、指導側の人間からの押し付けの証明だ。

そもそも後継者育成という言葉に対して私は違和感がある。
どこか後継者を支配しようとするニュアンスや、先代を含む指導的立場の人間からの作為的なものを感じてしまう。



これまで散々「後継者が育たない」という相談を社長から受け、どうしたものかと一緒に考えてきた。
そこで得られた結論は、人は育てようと思ったところでその通りに育つことはないということだ。

まず、ほとんどの場合で、後継者が先代の期待するレベルに育つことはない。
後継者育成は失敗が普通なのだ。

場合によっては努力と才能が開花することもあるだろうが、それだって決して先代がコントロールして成長させたわけではない。
はっきりいえば、たまたまだ。

後継者の成長のためにできることは、育つのを待つことだけ。
後継者には自分で自分の責任を負い、どうにかしようと試行錯誤してもらうしかない。

先代をはじめとする周囲が「何かをしてあげよう」とすればするほど、たいていは逆効果。
あれをやれ、これをやれと、後継者の時間と頭の中の余白を埋めてしまうケースは実に多い。

たとえ後継者に、十分な時間と試行錯誤できる環境を与えたとしても、成長しないことはある。
むしろ、そのほうが多い。
それでも待つしかない。
手を出せば、確実に芽をつぶしてしまうのだから。

スタジオジブリが、後継者育成のために何をしてきたのかはわからない。
それでも、宮崎吾郎が偉大な父のあとつぎに至らなかったことは、とっても普通のことなのだ。
彼に罪はない。

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この記事を書いた人

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継デザイナー
これまで関わった会社は1000社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられた神戸に住むコンサルタントです。
最新著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?』
ゴールを見すえる社長のための会【着地戦略会】主宰

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